アップルが「AirTag」の販売を開始した。早速使ってみたが、さすがユーザビリティは高くストレスがなく、アップルらしいプロダクトに仕上がっている。

 これまで私は、忘れ物タグとしてはおそらく一番流通している「Tile」をつかっていた。Tileはユーザー同士のスマホアプリを使って紛失物をサーチする仕組みだが、AirTagは全世界のiPhoneを中継器としてBluetoothとUWBの二種類の電波を発するAirTagの場所を見つけるものであり、圧倒的なユーザー数のため実用性が高まり、またアップルの一人勝ちかと思っていた。

 しかし、Tileも即座に次の打手を出してきた。それがAmazon Sidewalkという新ネットワークとの連携である。Amazon Sidewalkは、Echoスマートスピーカーを中継器として900MHz電波による新しいネットワークを提供する。900MHzは壁やその他の障害物を通り抜ける性質があり、500mから数キロメートルの距離に届くといわれている。実際、昨年行われたテストでは700台の中継器でロサンゼルス全体をカバーできた。しかも、Sidewalkの発信器は数カ月から1年間、電池交換無しに稼働する。

 カバー範囲は競合として十分である。2018年以降に発売された全てのEchoスピーカーや防犯カメラなどのRing製品には、Sidewalkの機能が搭載されていて、初期状態で機能がオンとなっている。忘れ物防止タグや犬の迷子防止などにはSidewalkの有利な場面もありそうだ。

 Tileは即座にAmazonとの連携によって対抗策を打ち出したが、テクノロジーで作った優位性は新しいものによって一瞬にしてなくなってしまう可能性がある。半年遅れていたら多くのユーザーが乗り替えを検討しただろう。

 忘れ物タグとしての機能や使い勝手はTileのほうが経験値を持っている、離れた時に「忘れてない?」とアラートしてくれる機能などアップルにはない機能もたくさんある。この優位性を維持するために、さまざまなベンダーとの連携によってサービスレベルを守ることはとても重要だ。

 自社のテクノロジーにこだわることによって、タイミングを逃すことが一番のリスクになる。テクノロジーをオープン化することで価値をユーザー数に置き換えることもできる。テクノロジーの優位性は永久ではない。そして一瞬にして失われることをいつも考えながら次を模索する必要がある。

 
事業構想大学院大学 教授 渡邊信彦
渡邊 信彦(わたなべ のぶひこ)
 1968年生まれ。電通国際情報サービスにてネットバンキング、オンライントレーディングシステムの構築に多数携わる。2006年、同社執行役員就任。経営企画室長を経て11年、オープンイノベーション研究所設立、所長就任。現在は、Psychic VR Lab 取締役COO、事業構想大学院大学特任教授、地方創生音楽プロジェクトone+nation Founderなどを務める。