視点

そのクラウドサービス、使って大丈夫?

2021/06/16 09:00

週刊BCN 2021年06月14日vol.1878掲載

 クラウドファースト――。今日では当たり前すぎて、いまさら声に出して語るのも気恥ずかしい言葉となってしまった。新型コロナウイルスによるパンデミックの中、テレワークの推進にしても、BCP対策にしても、クラウドサービスの活用こそが当然のように語られる市場環境となった。

 今回のパンデミックが始まってすぐに、グループチャットやビデオ会議の類のコミュニケーションツールへの需要が急激に高まり、社内メンバーや協力会社との内輪の会議にとどまらず、顧客企業への営業活動もオンライン会議で、という時代に突入した。それを追うように、いわゆるソリューションベンダーと呼ばれる企業がその大小にかかわらず、こぞってクラウドプラットフォームを通じたサブスクリプション・サービス提供へと急激に舵を切っている。ASP、SaaS、クラウドと一連の啓蒙活動に携わってきた身としては、市場が追い付いてきたという感慨はある。だが、果たして、このままで良いのだろうか。

 私自身、某オフィスソフトのクラウドサービスを契約し、リモートワークによる社員との共同作業に日々使っているが、決して満足できる性能、品質ではない。第一、オフィスソフトそのものがクラウド版では機能や操作性に劣るため、通常はPC上にインストールしたものを使っているし、ビデオチャットにしても音声の遅延や歪みがひどくて使い物にならないことがある。性能や操作性の問題ばかりではない。利用するクラウドサービスの種類が増えるにつれ、社員のユーザーアカウントの管理が煩雑になり、また事業データが社内のファイルサーバーからメールサーバーやグループチャットなどへ拡散する危険も増している。

 社員とSNSで事業データのファイル交換をして、社員の自宅PCや私物のスマホの中に残ってしまったファイルはどう管理すればよいのだろう。社員が独自の判断で個人アカウントのクラウドサービスを利用して、在宅で業務を行っていることを監視し管理する術もない。

 社内情報システムとクラウドサービス群を統合管理する体系を整備することなく、さまざまなクラウドサービスを社員個々の裁量で利用し続ければ、どのようなことになるか想像してほしい。その利便性だけで無闇に利用し続けて、ゆゆしき事態を招かぬようクラウドサービスの選択と利用は慎重にあるべきだ。

 
株式会社SENTAN 代表取締役 松田利夫
松田 利夫(まつだ としお)
 1947年10月、東京都八王子市生まれ。77年、慶應義塾大学工学研究科博士課程管理工学専攻単位取得後退学。東京理科大学理工学部情報科学科助手を経て、山梨学院大学経営情報学部助教授、教授を歴任。90年代に日本語ドメインサービス事業立上げ。以降ASP、SaaS、クラウドの啓蒙団体設立に参加。現在、「一般社団法人 みんなのクラウド」の理事を務める。
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