視点

「間が悪い」を超えてゆけ

2021/09/15 09:00

週刊BCN 2021年09月13日vol.1890掲載

 菅義偉首相が自民党総裁選への出馬を断念したことで、もはや世間の話題は政局一色になってしまった。菅首相肝いりの施策の一つだったデジタル庁が9月1日に発足したが、なんと間が悪いことか。

 この1年半ほどの間に日本の社会課題として改めて大きくクローズアップされたのが、デジタル化の遅れだ。日本の新型コロナ禍への対応をどう評価するのかと同様に、日本のデジタル化の遅れ具合についてどの国とどういう基準で比べて評価を下すのかは冷静な議論が必要だろう。しかし少なくとも、「Society 5.0」など国が掲げる日本社会のデジタル化構想を現実のものにしていくには、既存の中央省庁の縦割り構造から離れたデジタル施策のブレーンと実行組織が必要なのは明白だ。

 デジタル庁発足の前日にあたる8月31日には、2022年度予算の概算要求も公表された。要求額は総額5426億円で、そのほとんどを中央省庁の情報システム整備・運用経費が占める。一般会計分のシステム投資については、全省庁分を一括してデジタル庁が計上。まさに司令塔として、各省庁のデジタル化投資の内容を精査することになる。予算も含めてデジタル戦略の要となる機能をデジタル庁に集約できたのは、菅首相の鶴の一声があったからこそだったという見方は根強い。

 報道によれば、平井卓也・初代デジタル相は、政治状況に左右されることなくデジタル庁は求められる役割を果たしていくことになるとの考えを示しているという。政府CIO補佐官制度などの反省を生かした民間人材登用のスキームも整え、業界で名の通った人もデジタル庁職員に名を連ねる。600人の職員のうち、200人ほどが民間の人材で、民間からの出向は今後も積極的に受け入れる方針だとのこと。

 環境は整えたのだから大事な大事なスタートダッシュをしっかり決めてほしいところだが、菅首相の後見を失った後、誰がどんなリーダーシップを発揮できるのか、先行き不透明感は拭えない。

 ほとんどの国民にとって、政界の生々しい権力闘争はゴシップ的エンターテインメント以上の意味を持たない。さっさと政策論争に移って、デジタル庁をどうするつもりなのか、総裁・首相候補は大いに激論を交わしてほしい。

 
週刊BCN 編集長 本多 和幸
本多 和幸(ほんだ かずゆき)
 1979年6月生まれ。山形県酒田市出身。2003年、早稲田大学第一文学部文学科中国文学専修卒業。同年、水インフラの専門紙である水道産業新聞社に入社。中央官庁担当記者、産業界担当キャップなどを経て、13年、BCNに。業務アプリケーション領域を中心に担当。18年1月より現職。
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