YEデジタルはIoT領域のビジネスを一段と加速させる。本年度からスタートした3カ年中期経営計画では、IoTサービスを社会全般により広く実装する「ソーシャルIoT」戦略を柱の一つに位置付け、交通や物流、畜産業などへの販売に力を入れる。IoTビジネスでは運用支援や他サービスとの連携など継続的に価値を生み出すリカーリング型の収益モデルを構築。既存のITアウトソーシングなどと合わせて、この中計期間中に継続型の収益であるストックビジネスの比率50%を目指す。2022年5月20日付で11代目の社長に就任した玉井裕治氏に話を聞いた。(取材・文/安藤章司)
強みのIoT領域を中計の柱に
――23年2月期から3カ年の中期経営計画が始まったが、注力ポイントはどこにあるのか。
当社の強みを生かし、かつ成長可能性が見込める領域としてIoT領域に注力していく。もともとは安川電機の情シス子会社としてスタートしたこともあり、製造業向けのITシステムに実績がある。この強みを生かし、当社独自の商材として食品製造業向けのAI画像判定サービス「MMEye(エムエムアイ)」を製品化した。例えば、クッキーの焼き具合をカメラで撮り、焦げがあれば取り除き、十分焼けていない場合はクッキーを焼く窯の温度を上げるよう指示するといった活用を想定している。AIや画像処理の専門的な知識がなくても導入できる手軽さから、中堅・中小の食品メーカーでも重宝していただける。
――製造業メインでIoTビジネスを展開していく方針か。
製造業以外にも積極的に展開している。具体的には、バス停に掲示してある時刻表や案内板をデジタル化するスマートバス停「MMsmartBusStop(エムエムスマートバスストップ)」を西鉄グループと共同開発し、北は青森県、南は熊本県まで全国バス会社の100カ所余りで採用が進んでいる。従来のバス停は時刻表や案内を紙で掲示しているため、柔軟性に乏しかった。電子化することで事故やトラブルなどの緊急時にメッセージを掲示したり、より多くの広告を掲載したり、あるいは多言語表示への対応も容易になるなど運用の柔軟性が格段に高まる。
玉井裕治 社長
倉庫管理とロボットを橋渡し
――IoT領域の自社商品シリーズ名を「MM」としているのか。
おおむね「MM」とつけている。IoTという言葉が一般化する前は、M2M(マシンツーマシン)という言葉があり、当社ではそれをもじって4G/5Gなど無線ネットワークと連携させるモノ・モバイルの頭文字の意味も持たせた。MMと名のつく製品としては、21年11月に新しく「MMLogiStation(エムエムロジステーション)」を製品化した。
近年、倉庫の自動運搬などロボットの活用が急速に普及しており、数多くのロボットが倉庫内を動き回っている。これらロボットを制御するシステムと、倉庫業務全体を管理するシステムとの連携が課題になっていることから、MMLogiStationはロボット制御と管理システムの橋渡しをするミドルウェア的な役割を果たす。
倉庫用のロボットは技術革新が目覚ましく、次々と新しいロボットに更新されたり、運用台数が増えたりする。一方で既存の倉庫管理システムは成熟度が高いケースが大半で、そこにどうしてもギャップが生まれてしまう。MMLogiStationが間に入って出入庫作業や在庫移動作業、棚卸作業にかかわるデータを取り持つことで、さまざまなロボットを活用した倉庫自動化を強力に支援していく。
リカーリングで価値創出へ
――IoTの適用対象が業種・業態を問わず拡大している印象を受ける。
当社では「ソーシャルIoT」と呼び、IoTを交通や物流、農業など社会のさまざまな分野に応用し、その幅を広げている。直近では22年4月、畜産業向けに飼料タンクの容量を計測・管理する「Milfee(ミルフィー)」を製品化した。巨大な飼料タンクにセンサーを取り付けて残量を手持ちのスマホで見えるようにしたり、飼料メーカーと連携したりといった用途を想定している。
――IoT領域でどのくらいの売り上げを見込んでいるのか。
IoTでは遠隔での運用支援など継続的に価値を生み出すリカーリング型の収益を重視している。業務アプリなどビジネスソリューション領域では、ITアウトソーシングなどストック型のビジネスに相当する。直近の全社のストック型ビジネスの売上比率は4割程度を占めているが、25年2月期には5割を目指す方針だ。ストック比率を今以上に高めていくには、IoT領域のビジネスの伸びが欠かせないことから、ここを重点領域と位置付けている。
――伸ばす手立てや仕掛けはあるのか。
新しい事業を立ち上げるときに権限を委譲する“プロダクトオーナー制”を前任社長の遠藤(現遠藤直人会長)が導入しており、私の代でも継続していく。例えば、ソーシャルIoTの事業化に向けて、よいアイデアを持った社員をプロダクトオーナーとして、権限と予算を持ってもらう。新規事業の立ち上げは大変で、見事成功したら賞与とは別に報奨金を出すなどリスクに見合った報酬体系を用意している。新しい事業を立ち上げるのは人材とやる気に大きく左右されるため、組織の風通しをよくして、新しいアイデアを募り、ソーシャルIoTの拡充につなげていきたい。
Company Information
YEデジタルは本年度(2023年2月期)の連結売上高は前年度比9.3%増の150億円、営業利益は同11.0%減の7億5000万円を見込む。中計最終年度の25年2月期は連結売上高180億円、営業利益15億円、営業利益率8.3%を目標に据える。従業員数は約600人。