視点

日本産業復活の隠し玉は「ロレックスビジネス」に

2023/12/20 09:00

週刊BCN 2023年12月18日vol.1996掲載

 日本には経済計画がなくなり、長期的に何で食べていくのかという議論が希薄になっている。かつては国民所得倍増計画や経済社会発展計画など、長期のマクロ経済の議論を官学民で戦わせていたのに、そんな話はとんと聞かなくなった。次の決算に頭を悩ませる経営者と同様、政府も来年の経済をどうするのかと、短期型となって久しい。

 ここで青臭くはあるが、今後の日本経済の飯の種、基本戦略を考えてみたい。まず、今後とも世界経済を中核で引っ張るインターネット事業は、米国と中国の二つの大国で決まりである。これは日本がいかにインターネット技術やノウハウのレベルを高めようとも、二つの大国に比較すると約1億2000万人の人口では基礎マーケットが小さ過ぎるためだ。
 次に半導体、バイオテクノロジーなどのハイテク分野もアジア企業が日本並みのクオリティを身に付けており、戦略的な投資や販売戦略での巻き返しはなかなか難しい。既存事業でEV化をうまくクリアしたという条件付きの自動車産業以外は、家電も工作機械も厳しい。アジアの家電量販店や工場を回っても、日本企業の看板や製品をほとんど見なくなった。

 それでは今後、全く方法がないかと言えばそうでもない。身近に見本がある。それはいまや年間売上高が1兆円を超える時計の「ロレックスビジネス」である。経済産業省の表記に倣えば「グローバルニッチトップビジネス」となるが、どうも分かりにくいので、私はあえてこの表現としたい。

 ロレックスは設計、開発、製造をすべて自社で行い、高級な素材に熟練の技術で丁寧に時計を作り上げる。品質への探求心が並ではないのだ。時計としての精度などを極限領域まで追求している。次に注力しているのがデザインで、これがまた群を抜いている。1905年に前身となる会社を英ロンドンで創業したときから徹底している。

 このロレックス型のグローバルニッチトップ企業は日本に数多く存在するが、そのほとんどが中小企業である。これを中堅・大企業の分野にすそ野を広げていくことで産業の競争力を取り戻す。そのためには日本人がこれまで以上のこだわりと創意工夫力を生かす現場尊重型の風土を醸成し、一つの製品を数百万円、数千万円で売り出す度胸とビジネス感度を会得することが重要である。

 
アジアビジネス探索者 増田辰弘
増田 辰弘(ますだ たつひろ)
 1947年9月生まれ。島根県出身。72年、法政大学法学部卒業。73年、神奈川県入庁、産業政策課、工業貿易課主幹など産業振興用務を行う。01年より産能大学経営学部教授、05年、法政大学大学院客員教授を経て、現在、法政大学経営革新フォーラム事務局長、15年NPO法人アジア起業家村推進機構アジア経営戦略研究所長。「日本人にマネできないアジア企業の成功モデル」(日刊工業新聞社)など多数の著書がある。
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