<企業概要>
米本社は2001年に設立。約4400社の顧客を持ち、Fortune500の半数以上の企業に同社の製品は利用されている。日本法人は18年に設立し、19年に事業を開始した。従業員数は45人(24年2月時点)。大手小売業や製造業、情報サービス業など、大手を中心に幅広い顧客を持つ。
グローバルで実績のあるソリューションベンダーの国内参入が続いている。日本法人を立ち上げ、国内でビジネスを本格化する外資系ベンダーは、どのような勝ち筋を思い描いているのか。第4回は、決算などの経理業務を効率化する基盤を展開する米BlackLine(ブラックライン)の日本法人に戦略を聞く。ERPによる会計情報のデジタル化だけでは達成できない経理業務の変革に寄与すると意気込む同社は、中堅・中小企業へのアプローチを視野に入れた拡販に取り組む方針だ。
(取材・文/大畑直悠)
グループ間の取引を効率化
ブラックラインが提供する基盤は、ERPの機能を補完し、業務の可視化や自動化、標準化などで経理分門のDXを支援する。タスク管理機能や勘定照合の自動化、財務諸表に対する信頼性を確保するための分析機能などを備える。
宮崎盛光 社長
宮崎盛光社長は「正しいデータを正しい場所に置くためにERPは欠かせないが、データを入れる箱としての堅牢性は進化しているものの、経理部門の生産性向上や働き方を改善するところまではできない。ある顧客のCFOからは、われわれの基盤は経理部門の業務を変革し、経営陣から求められるさまざまな要望に応える余力時間を創出できると評価されている」と訴える。
APIなどを利用して、国産製品も含むさまざまなERPや会計システムと連携できることが特徴。宮崎社長は「親会社と子会社で異なるシステムを利用する企業は多く、当社の基盤を各ERPと連携させてデータを集約し、フロントのような位置づけで活用することにより連結決算の効率化やガバナンスの強化につなげる顧客もある」と紹介する。
国内市場では、コロナ禍を機にリモートワークで決算処理ができる同社の基盤への引き合いは増加したという。コロナ禍後もESG経営の観点から非財務データなど、企業の価値を上げるための情報の公開が求められるなど、経理部門が担う業務が増加しているとの見方を示し、同社の基盤への注目は高まっているとする。加えてスキルの標準化の観点での需要も高いと強調し、宮崎社長は「退職者によってノウハウの損失を防ぐ目的で、旭化成や花王といった企業に利用されている」と話す。
今後の製品拡充の方向性については、会社間取引を効率化する機能や会計関連のデータを分析・レポーティングし、経営層の意思決定を支援する機能のローンチを年内に予定しており、既存顧客のアップセルを図る。宮崎社長は「新機能は国内市場からの声をもとに優先順位付けしている。グループ間取引にかかる工数を改善したいという要望は非常に大きい」と説明する。
パートナー支援部隊のリソースを拡大
パートナーと連携した提案に力を入れることでシェアの拡大を進める。宮崎社長は「パートナー支援部隊のリソースを追加している」と強調する。24年2月には日立製作所、富士通、NTTデータグローバルソリューションズと新たにパートナー契約を結び、既存のグローバルパートナーと国内パートナーの計12社で、ERP導入や活用支援の付加価値として同社基盤の提案を推進するほか、新規パートナーの獲得も視野に入れる。
販売戦略については、大企業を販売ターゲットにする方針。宮崎社長は「国内市場はERPを導入する大企業が多く、トランザクションも多いことから当社が支援できる変革のインパクトは大きい」と指摘し、活用支援の提供で事例の創出を図っていく。このためカスタマーサクセス部隊の人員の拡充に加え、導入から活用支援までを担うパートナーとの協業も活性化させる意向だ。
グローバルでは中堅企業への導入も進んでいるといい、今後は国内でも組織の拡大に合わせて拡販を進める考え。宮崎社長は「優先度が高いのは既存のパートナーとの関係を強化し大企業を支援する体制を整えることだが、中堅・中小企業のシェアを伸ばす余地がまだまだ残っている。当然われわれだけでは手が足りず、既存のパートナーの中堅マーケット担当の方々に力を貸してもらったり、この領域に専門性や強みを持つパートナーと新たに協業したりすることがメインの戦略になるだろう」と明かす。
地方に対しては、「現在は東京や大阪、京都、名古屋といった大都市圏で顧客数を伸ばしているが、その他の地域へのアプローチはこれからだ。その際は、ローカルキングと呼ばれるような有力なパートナーとの協業もあり得る」と見通す。
新規顧客の獲得に向け、ユーザー会が活発であることを強みとして挙げる。「当初の参加者は40人ほどの規模だったが、約500人にまで拡大し、ノウハウを共有し合う機会となっている。当社の基盤導入を検討する企業に既存ユーザーがモデルケースとしてレクチャーを提供した事例もあり、当社の基盤の有用性を訴えてくれている」とアピールする。