〈企業概要〉
米Gainsight(ゲインサイト)は2009年に創業。カスタマーサクセスプラットフォームを提供し、米Box(ボックス)などに導入される。ニック・メータCEOが16年に出版した著作はカスタマーサクセスの方法論を体系化した名著として評価され、同社が市場で存在感を高める一端となった。日本法人は2022年4月に設立。
グローバルで実績のあるソリューションベンダーの国内参入が続いている。日本法人を立ち上げ、国内でのビジネスを本格化する外資系ベンダーは、どのような勝ち筋を思い描いているのか。第1回は、「カスタマーサクセス」の普及を主導してきた米Gainsight(ゲインサイト)の日本法人に戦略を聞く。同社はカスタマーサクセスに必要なプロセスをパッケージ化したプラットフォーム「Gainsight」を提供している。昨今は幅広い企業がカスタマーサクセスに関心を示しており、人材の育成やパートナーとの協業を通してマーケットの拡大に力を入れる考えだ。
(取材・文/大畑直悠)
契約後の顧客状況を可視化
製品導入を機に、顧客との継続的な関係を構築し、顧客の成功まで伴走する「カスタマーサクセス」は、SaaSビジネスの台頭とともに注目されるようになった概念だ。Sansanやマネーフォワード、ユーザベースといった国内企業でも導入が進むカスタマーサクセスプラットフォームを提供するゲインサイトは、この分野で世界的にトップクラスの評価を得ている。日本法人の絹村悠社長は「国内企業も今後のSaaSやクラウドビジネスの市場拡大に伴って、カスタマーサクセスに取り組む必要性が高まるだろう」と展望する。
絹村 悠 社長
カスタマーサクセスに取り組む際に重視すべきこととして、絹村社長は「従来は顧客獲得後に担当営業がその後の対応も担うことが多かった」とし、「導入後に顧客が成果を出せるかは、担当営業のスキルセットや忙しさに左右されていた。顧客を成功に導くプロセスを明確にしたり、分業体制を取ったりして、会社として顧客を支援する仕組みが必要だ」と説明する。
ゲインサイトが提供するカスタマーサクセスプラットフォームは、契約締結から更新までの間にエンドユーザーがたどる一連のプロセスを設定した上で、プロセスの各段階を通過するごとにアラートを出す機能を有する。製品の利用度合いや契約更新のタイミングなどのアラート内容に合わせて、取るべきコミュニケーションの手法や内容を設定しガイドする機能「プレイブック」も搭載するため、カスタマーサクセスのノウハウを社内で標準化できるという。
また、社内のさまざまなデータを収集した上で、設定した指標に沿ってエンドユーザーの状況を確認できる「ヘルススコア」では、顧客とのやり取りの記録やイベントへの参加履歴などからエンドユーザーが自社に示す関心度合いを把握可能にする。絹村社長は「ヘルススコアの変化でアラートを出すタイミングも設定できる。これにより計画的な顧客との関係構築だけではなく、非計画的な状況にも対応できるようになる」とアピールする。米Salesforce(セールスフォース)や独SAP(エスエーピー)、米Snowflake(スノーフレイク)などのソリューションとのデータ連携も可能だ。
絹村社長は「カスタマーサクセスに取り組みたいという企業は多いが、実際に必要な業務が分からないケースが多い」とし、「当社のプラットフォームはカスタマーサクセスに必要なプロセスがフレームワーク化され、完結できるようにパッケージ化されている」と強調する。
SIerのビジネス変革を後押し
国内市場におけるシェアの拡大に向けては、人材の育成を通して、カスタマーサクセスの理解度や成熟度を上げ、マーケットの拡大に注力する。ユーザーコミュニティの活動を後押しするほか、パートナーとの連携も視野に入れる。絹村社長は「一緒にマーケットをつくるパートナーと協業したい」と訴え、特にシステムの構築や、顧客の業務要件の定義・改革を担うコンサルティング、同社のソリューションのトレーニングを提供するパートナーとの協業拡大を狙う。リセールパートナー網を構築する意向の有無に関しては、「将来的には協業もあり得るが、まずはわれわれ自身が顧客をしっかりと成功に導き、カスタマーサクセスの有効性を示す事例を積み上げることが重要だ」と話す。
販売ターゲットとしては、組織の規模に応じたプランを用意し、ユーザーの大小は選ばない。最小で5人から始められ、基本となるフレークワークを利用できる。絹村社長は「自力でカスタマーサクセスを始めようとしても年単位で時間がかかる。われわれはグローバルで最先端のベストプラクティスを有するため、部隊の立ち上げにかかる時間を省略し、すぐにカスタマーサクセスを始められるように支援できる」とし、40%の顧客が2.3カ月以内にサービスを立ち上げたと紹介。「試験的に部隊を立ち上げたい場合も、まずは相談してほしい」と呼びかける。
特にSIerに対しては「顧客ごとにスクラッチでシステムを構築する従来のビジネスモデルから、汎用的な機能をまとめたパッケージのサービスや、サブスクでの提供が模索されている。そうした企業には顧客との新たな関係構築のためにカスタマーサクセスのインパクトが届きやすく、ビジネスモデル変換を後押しできる」と訴える。
カスタマーサクセスの導入が有効な企業は幅広いとの見方を示し、「SaaSビジネスを展開する企業だけではなく、今後は、さまざまな業態の企業にも浸透していくだろう」とみる。現状でも三井住友カードや出版社の新日本法規出版が導入しており、ほかにもモバイルアプリやポイントカードなどを用いる飲食業や人材系の企業などさまざまな業界からの引き合いが生まれているという。絹村社長は「顧客との関係性を重視し、顧客視点の経営を目指す全ての企業にとって有効な考え方だ」と力を込める。