PC市場に大きなうねりが迫っている。2025年10月に控える「Windows 10」のサポート切れや、文部科学省のGIGAスクール構想によって全国で一斉導入された端末の更新による特需が見込まれ、「AI PC」への期待もにわかに高まりつつある。新型コロナ禍における需要拡大からの反動以降、低調が続く市場は新たな局面を迎えるだろうか。第1回は、PC市場関連の統計データを集計する電子情報技術産業協会(JEITA)に今後の市場の展望を聞く。JEITAは24年から特需が始まるとし、リモートワークの普及の影響からモバイルノート型の需要が増加するとの見方を示す。
(取材・文/大畑直悠)
24年に962万台の需要が生まれる
JEITAの統計によれば、23年の国内出荷台数の実績は666万7000台(前年比97.1%)。うちデスクトップ型が109万台(同96.4%)、ノート型が557万6000台(同97.2%)で、国内市場の出荷台数は3年連続で前年を下回る結果となった。
ここ数年のPC市場では、「Windows 7」のサポート終了や19年10月の消費増税による駆け込み需要、コロナ禍で普及したリモートワークへの対応、20年のGIGAスクール構想による小中学校の児童・生徒向けの1人1台端末の整備といった要因から、19年は973万7000台、20年は1045万5000台、21年は886万9000台と好調が続いたものの、22年はその反動で686万9000台と大幅に減少。23年もこの影響が残るかたちとなった。
望月賢一 委員長
出荷金額で見ると、23年は7658億円(同104.4%)で、4年ぶりに前年を上回った。内訳をみると、デスクトップ型が1423億円(同98.1%)、ノート型が6235億円(同105.9%)となり、ノート型が堅調に伸びた。JEITAで統計や市場動向分析などを担うPC・タブレット事業委員会PC・タブレット市場専門委員会の望月賢一・委員長は「円安の影響で材料費や物流費、人件費が高騰し、それがPCの単価にも転嫁された。また、リモートワークに適した端末として、持ち運ぶための軽量さや長時間バッテリーが求められたことも単価を押し上げた要因として考えられる」と説明する。
今後については、Windows 10のサポート終了による更新需要が市場をけん引する。14年4月の「Windows XP」のサポート切れの際は、買い替えが間に合わない状況が生まれたのに対し、20年1月のWindows 7のサポート切れでは18~19年にかけて前倒しでリプレースが進んだとし、Windows 10も同様に24年からの本格化を予想する。併せて、リモートワーク関連需要で購入された端末の買い替えサイクルも24年が起点になるとみられる。
24年の好材料はまだあり、GIGAスクール構想で導入された端末が更新時期に入る。早期に整備した自治体では故障の増加やバッテリーの劣化などの問題が現れているという。文部科学省は計画的な端末更新を進めるため、23年度補正予算で、公立学校の端末整備に2643億円を計上した。25年度までに約7割に相当する端末を更新する計画で、1台につき5万5000円を補助する。予備機や、視覚や聴覚、身体などに障害のある児童・生徒向けの入出力支援装置も補助対象。また、国立や私立、日本人学校などの端末整備に18億円を割り当て、こちらも1台につき5万5000円の整備を支援する。
こうした要因が重なることで、JEITAは24年には全体で962万台、うちデスクトップ型が215万台、ノート型が747万台の需要が生まれる見通しを示す。25年にはピークを迎え、全体で1351万台、うちデスクトップ型で212万台、ノート型で1139万台の需要が喚起されると予測する。26年の需要は1119万台で、以降は減少に転じる見込みだ。
30年までにAI PCが底上げ要因に
24年の売れ筋としては、画面サイズが14型未満のモバイルノート型へのニーズが高まると予想する。ノート型の出荷実績のうち、モバイルノート型が占める割合は、18年は3割未満だったのに対し、23年は5割近くまで増加している。望月委員長は「リモートワークやハイブリッドワークが定着したことから、24年以降もこの傾向が続くだろう」と述べる。
GIGA端末のリプレースでは、文部科学省が24年1月、「端末の最低スペック基準」を示した。前回の「標準仕様書」で「Intel Celeron 同等以上・2016年8月以降に製品化されたもの」とされていたCPU性能は、「Intel Celeron Processor N4500と同等以上」と世代が指定され、わずかではあるが、最低ラインの引き上げが図られた。加えて、デジタル教材の本格的な運用を念頭において、タッチペンの利用も推奨されている。このほか、小学校低学年の児童が活用する端末で故障が多く報告されたことから、堅牢性確保への留意も求められた。
ローカル側でAIを処理できるAI PCへの注目も高まっている。望月委員長は「生成AIの普及でまず伸びるのはサーバーなどのインフラの領域だと予測している」とし、PCでの影響は24年から徐々に始まり、30年ごろまでには需要を底上げする要因になると推察する。OSだけではなく生成AIソリューションの提供でも存在感を示す米Microsoft(マイクロソフト)の動向も、普及に向けて大きな影響を与えるとし、まずは生成AIのユースケースや有効性が十分に示されることで、AI PCへのニーズが増加していくとの考えを示す。