「世間はDXブーム。会社の方針もあり、DXをやらなくちゃ。ならば、どんなデジタルツールを導入すれば、DXをやったことにできるだろうか」
「手段の目的化」とは、こんなことかもしれない。DXの本来の目的は、「X=Transformation、変革」であるのに、「デジタルを使うこと」が、目的となってはいないだろうか。
抽象的な「変革」よりも、具体的な「ツールの導入」のほうが分かりやすいので、手段を目的化し、変革を置き去りにしてはいないだろうか。
この状況を正し、変革に軌道を向けさせるのが、経営者やDX推進組織の役割だ。しかし、DX推進組織は、現場の取り組みを追認し、とりまとめて報告する役割にとどまり、経営者もツールの導入や使いこなすための研修の進捗を見て、これを評価し、変革の達成の度合いを評価しないという、なんともゆがんだ状況に陥っているところもある。
変革とは、まずは時代遅れになったことを止めること。その上で、新しいことを始めるのが正しい順序だが、「止めること」には、現場の抵抗が伴う。
だからこそDX推進組織は、「リーダーシップ」を発揮し、タブーや暗黙の了解にも踏み込んで、古い常識を捨てさせる役割を担う必要がある。「情報のとりまとめ役」や「部門間の調整役」では、この役割を果たせない。
経営者は、そんな取り組みを支えなくてはならないが、DX推進組織に丸投げし、DXとは何かを現場に決めさせようとする。現場も、そんな経営者の態度を見て、都合よく解釈し、リスクを負おうとはしない。こんな構図が、できあがっているように見える。
ツールの適用範囲が広がり、「DXが実践されている」と経営者やDX推進組織は、満足するかもしれないが、それは効率や利便性を高める改善であり、変革ではない。
DXを実現するためには、「頑張らなくても、当たり前にデジタル前提で考え、行動する企業や組織の文化や風土を定着させること」が重要になる。それに向けて、目的と手段をしっかりと意識して、行動しなくてはならない。
ネットコマース 代表取締役CEO 斎藤昌義

斎藤 昌義(さいとう まさのり)
1958年生まれ。日本IBMで営業を担当した後、コンサルティングサービスのネットコマースを設立して代表取締役に就任。ユーザー企業には適切なITソリューションの選び方を提案し、ITベンダーには効果的な営業手法などをトレーニングするサービスを提供する。