生成AIの普及は、大学教育の前提を大きく揺さぶっている。授業の音声を文字起こしし、要点をAIにまとめさせる。その内容からテストでどのような出題がなされそうか想定問題をつくらせ試験に備える。レポートはAIが数分で整った文章にし、プログラムも自然言語から生成できる。知識を蓄え、与えられた課題に「正解」を返すという従来の学習モデルは、AIの登場とともに急速に存在感を失いつつある。日々学生たちのレポートを評価する中で、その変化を実感せざるを得ない。
それでも、多くの大学は旧来型のレポートや試験を続け、AIの利用を「禁止」する方向で対応しようとしている。PCを使わせず、その場で紙に書かせるレポートにしたという話も聞く。しかし、これは長期的には教育のガラパゴス化を招きかねない。変化を前提にした見直しが必要だ。
求められるのは、AI利用を前提とした課題設計への転換である。生成AIの利用自体を認めた上でそのプロセス、与えた指示、得られた気づきを説明させる。サイバー大学でも、こうした転換に向けて2024年から教職員による研究会を立ち上げ、評価方法の再設計を進めている。知識量ではなく、思考のプロセスや判断の根拠を問う仕組みづくりがかぎとなる。
教員の役割も変わる。知識の伝達者から、学びの体験を設計する「学習デザイナー」へ。学生の経験を引き出し、あえて小さな“違和感”や“情報のズレ”を提示し、議論や協働の中で理解を深めさせる。AIが容易に答えを生成する時代だからこそ、問う力や問いの構造を編集する力が、教育の中核となっていく。
一方で、小・中学校や高校ではすでに「総合的な学習・探究の時間」を通じて、変化の激しい社会に対応するための探究的な学びが始まっている。この「問いを立てる力」は、高校段階で終わらせるのではなく、大学や社会人教育へとつなげていくことで、学びの循環を社会全体に広げる基盤となるだろう。
生成AIは教育を脅かす存在ではない。むしろ、大学が本来果たすべき役割―自ら問い、探究し、新しい価値を生み出す力を育てること―を再定義するきっかけを提供している。AIと共に学ぶ力を育てられる大学こそ、これから選ばれていく。大学教育はいま、確実に転換期を迎えている。
サイバー大学 IT総合学部教授 勝 眞一郎

勝 眞一郎(かつ しんいちろう)
1964年生まれ。奄美大島出身。中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了(経済学修士)。ヤンマーにおいて情報システム、経営企画、物流管理、開発設計など製造業業務全般を担当。2007年よりサイバー大学IT総合学部准教授、12年より現職。2025年より鹿児島大学大学院理工学研究科特任教授。総務省地域情報化アドバイザー、鹿児島県DX推進アドバイザー。「カレーで学ぶプロジェクトマネジメント」(デザインエッグ社)などの著書がある。