ワークスアプリケーションズは、伸びしろが大きい販売管理システムを軸に顧客の開拓を本格化させている。4年かがりで開発したシステムは昨年4月、ファーストユーザー先で本稼働した。今後、業種を切り口に導入の拡大を進める考えだ。一方、同じタイミングで持ち株会社制に移行。販売管理を担う事業会社を新たに立ち上げ、既存のERP製品を販売する事業会社と、導入支援やITインフラ構築を担う事業会社の主要3社の体制を構築した。昨年9月にトップに就任した秦修氏にビジネスの状況や今後の戦略を聞いた。
(取材・文/安藤章司 写真/大星直輝)
建設、プラント業界で横展開へ
――まずは今のワークスアプリケーションズの近況をお話しください。
ご存じの通り主力商材のERP開発の先行投資がかさんだことなどで、私が当社取締役最高財務責任者に就いた2017年の財務はかなり傷んだ状態でした。19年に会社分割で人事給与システム関連の製品事業をWorks Human Intelligence(ワークスHI)に移管したときに、私は財務の立て直しが完了するまで5年かかると見ていて、現在はまだその途上にあります。
国内ERPベンダーは中堅・中小企業向けに開発しているケースが多いなかで、当社は大企業を主なターゲットとしている希有な存在です。大企業ユーザーの多様な機能要求を製品にできる限り反映し、ノンカスタマイズでERPを導入できる当社の製品特性が評価されるかたちで直近では325企業グループ、2242社に当社製品を活用していただいています。21年4月に、4年がかりで開発してきた販売管理システムが大手建設業の顧客先で無事稼働し、今は2社目、3社目への納入に向けて動いています。
――稼ぐ力が着実に高まってきたということでしょうか。
そうです。先行投資が続いた販売管理システムが稼げる状態になったことが大きい。当社はカスタマイズなしで導入できるERPで伸びてきたベンダーで、会計基準や法規制の絡みで会社ごとの差異があまり大きくない財務会計システムや、ワークスHIに移管した人事給与はうまくいきましたが、業種・業態での違いが大きい販売管理の開発は、正直、難航しました。ファーストユーザーの大手建設会社の力添えをいただき、実質的に共同開発するようなかたちで進めてきたことから、少なくとも建設業界向けの販売管理としては、非常に完成度が高く、業務への適合率も高いものに仕上がっています。
――販売管理は業種に縛られるということでしょうか。
販売管理は確かに業種・業態で違いが大きいですが、見方を変えれば業種・業態に焦点を当てた販売管理ならば、同一業界や業務フローが似ている隣接業種への横展開ができるということです。例えば、建設業界とプラント業界は、プロジェクト管理の仕方や業務フローがとても似ていることが割と早い段階から分かっていましたので、少なくとも両業種の顧客にはカスタマイズなしで納入が可能です。実際、当初の見込み通り、プラント業界の顧客向けに販売管理の商談が複数進んでおり、将来的にはこの二つの業界で標準的な販売管理のポジション獲得を目指していきます。
既存ユーザーのなかには、鉄道会社グループや不動産会社、私立大学などのまとまったシェアを持たせてもらっている業界が複数あります。既存製品は顧客の口コミ効果などで結果的に特定の業界内シェアが高まった側面がありますが、販売管理ではむしろ業種を切り口に、意識的に特定の業界内でシェアを高めていく考えです。
事業会社3社体制で役割を明確に
――販売管理のファーストユーザーが決まったタイミングで、会社組織も大きく変えています。
持ち株会社であるワークスアプリケーションズの下に、主要な事業会社3社を配置する体制へと昨年4月1日付で変更しました。主要事業会社は、財務会計やグループウェア、SaaSなど主要な製品事業を担うワークスアプリケーションズ・エンタープライズ、販売管理を担うワークスアプリケーションズ・フロンティア、SIサービスを担うワークスアプリケーションズ・システムズで、ポイントは販売管理の部分を切り出して別会社にした点にあります。
安定成長や安定収益が見込める既存製品の事業領域と、これから新規顧客や特定業界でのシェアを高めていく販売管理とは、ビジネスの発展のレベル感や営業の仕方が異なります。そこで、市場開拓の余地が大きく販売管理のビジネスをフロンティアとして事業会社化しました。フロンティアという社名にしたのは、大きく成長することを期待してのことです。
――既存事業のエンタープライズ社、伸びしろが大きいフロンティア社と分けたのは理解できますが、システムズ社はどういった役割なのでしょうか。
カスタマイズ不要なのが当社ERPの売りなのに、なぜSIサービスが必要なのかという話ですよね。ノンカスタマイズであることに変わりありませんが、実際に導入するとなると、ITインフラ回りの構築や細かなパラメーターの設定作業が必要になります。パラメーターの設定だけで業務に適合することができる機能性が当社の強みなのですが、あまりにも細かいところまで設定が可能であるため、ユーザー企業に任せっきりというのも若干不親切と感じていました。そこで、システム要件の整理や導入支援、ITインフラ構築、保守運用を担う会社としてシステムズを立ち上げました。
当社はインドや中国などに海外オフショア開発拠点を持っており、従業員数約1400人のうち国内と海外で半々を占めます。本年度(22年6月期)に入ってからは、海外オフショア拠点との連携窓口となっていた国内会社をシステムズ社に吸収合併させるとともに、システムズ社で担っていた販売・構築パートナービジネスをエンタープライズ社へ移管させるなど組織改編を継続しています。
パートナービジネスの整備急ぐ
――直販主体のイメージが強いワークスアプリケーションズですが、販売代理店やSIerなどビジネスパートナーとの連携状況はどうですか。
徐々にではありますが、パートナービジネスは拡大しつつあります。当社が主力とする大企業向けに財務会計や販売管理なりのERPを丸々納入するというよりも、資産管理やワークフロー、グループウェアといった単体製品を販売していただいたり、中堅・中小企業ユーザーにも導入のハードルが低いSaaS対応製品の取り扱いを始めていただいたりするケースが増えています。とりわけ、SaaS型で提供している当社ワークフローは、大企業の複雑な業務フローにも対応できる点が高く評価されており、例えば中堅規模の企業が成長してもそのままお使いいただけます。
直近では、案件ベースの取引も含めて10社ほどのビジネスパートナーの方々に販売や導入支援をしていただいており、それと並行して当社内のパートナービジネスの契約体系や、支援体制の整備を急ピッチで進めています。パートナービジネス事業部門が中心となって本年度中により整合性のとれた体系へと完成度を高めていく方針です。
――業績についてもお話いただけますか。
直近の業績の開示は控えさせていただきますが、25年6月期には連結売上高200億円、営業利益60億円を目標としています。懸案だった販売管理もフロンティア社が中心となって軌道に乗せていく体制が整い、中堅・中小企業ユーザーでも導入していただけるSaaS商材の拡充、さらにはビジネスパートナーを巻き込んだ販売体制の整備を進めていくことで、目標達成を目指していきます。
業績とは直接関係ありませんが、コロナ禍対応での在宅勤務の奨励で、当社の出社率は平均すると3割程度です。さすがに本社が従来の東京・赤坂の大きなオフィスのままではもったいないので、20年末にシェアオフィスのWeWorkへ移しました。業務のデジタル化を推進している企業として新しい働き方を、自ら率先して確立させていくのが狙いです。オンラインやリモートの手法を取り入れた新しい働き方を試行錯誤したり、模索したりするのにシェアオフィスは都合がよく、かたちになってきたら次のオフィス設計に生かすとともに、ここで得た知見を当社製品にも反映していきたいですね。
眼光紙背 ~取材を終えて~
デルコンピュータ(現デル・テクノロジーズ)やエアアジア・ジャパンで財務畑を歩んできた秦氏は「顧客と現場と数字の三つを照らし合わせることで企業の実態が見えてくる」と話す。顧客の声と現場の従業員の声、財務諸表を三角測量するように組み合わせ、財務諸表に隠れていた本当の姿を浮き上がらせる。
もともと「問題がありそうなところに首を突っ込んでいく性格」であることもあり、客先や現場に積極的に出向いていくCFOとのイメージが定着。トップに就任してからもこの方針に変わりはない。
かつて主力だった人事給与パッケージは手放したが、販売管理で新規顧客の開拓を進めるとともに、パートナー経由の販路強化にも着手。大企業中心だった顧客層も、SaaS商材を切り口に中堅・中小企業層に広がりつつある。稼ぐ力を取り戻しつつあることから、早期の黒字化に向けて確かな手応えを感じている。
プロフィール
秦 修
(はた おさむ)
1972年、東京都生まれ。97年に成蹊大学経済学部卒業。市場調査会社、会計コンサルティング会社を経て、2000年にデルコンピュータ(現デル・テクノロジーズ)入社、主に財務関連業務に従事。アジア太平洋地域の財務企画部門統括や韓国CFO(最高財務責任者)、日本CFOなどを務めた。13年にエアアジア・ジャパン設立準備に参画後、同社のCFOと代表取締役社長を歴任。17年にワークスアプリケーションズ取締役CFO。19年に代表取締役最高執行責任者。21年9月28日から現職。
会社紹介
【ワークスアプリケーションズ】持ち株会社傘下に既存事業を担うワークスアプリケーションズ・エンタープライズ、新製品の販売管理を担う同・フロンティア、ERP導入支援やITインフラ構築を担う同・システムズの主要な事業会社3社からなる。グループ連結従業員数は約1400人。国内と海外で半々を配置している。大企業向けを主力とする純国産ERPベンダー。