Special Feature
激動!! 国内PC市場 GIGAスクールの影響は“文教限定”にあらず
2021/04/01 09:00
週刊BCN 2021年03月29日vol.1868掲載

2020年(1月~12月)の国内PC市場は想定外の成長を遂げた。それを支えたのが、小中学校において児童生徒1人あたり1台ずつPCを整備する「GIGAスクール構想」である。最低でも750万台以上の新たなPC需要が創出され、その効果は21年3月まで継続。さらに4月以降も、高校を対象にPCの導入が促進されることになる。GIGAスクール構想は、国内PC市場にプラスの効果を及ぼしただけでなく、今後の市場勢力図やPCビジネスの変化にまで影響を与える「大波」となった。GIGAスクール構想をきっかけとした国内PC市場の変化を見ていこう。
(取材・文/大河原克行 編集/前田幸慧)
PCメーカーの勢力図に 明確な変化
過去最高を記録した2020年のPC出荷
調査会社の発表をみると、2020年の国内PC市場は、想定外の好調ぶりとなったことがうかがえる。IDC Japanは、今年2月に発表した調査で、20年の国内PCの出荷台数は前年比0.1%減の1734万台で微減の実績となったものの、「20年は19年に続いて記録的な出荷数を達成した」と総括した。同社ではこの1年の状況について、「19年はWindows 7の延長サポート終了前の買い替え需要が発生し、国内PC市場は過去最大規模を記録。20年はその反動減が見込まれていた」としながら、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大がきっかけとなり、在宅での仕事や学習にPCを使用するケースが急拡大したことに加えて、GIGAスクール構想の始動により、コンバーチブルノートブックPCやデタッチャブルタブレットの特需が発生した」と説明している。
一方、MM総研は、今年3月に発表した調査で、20年の国内PCの出荷台数は前年比1.3%増の1591万台となり、同社が調査を開始した1995年以来、過去最高だった19年を上回り、出荷台数記録を更新したと明らかにした。同社では、「20年の国内PC市場は、新型コロナ対策のための家庭からの支出と、教育市場向けの政府支出であるGIGAスクール構想に支えられた」と分析。Windows 7のサポート終了に伴う特需を超える需要がGIGAスクールによって発生したと指摘した。
業界内では当初、20年の需要は前年比3割減にとどまるとの予測が出るなど、Windows 7特需の反動が大きく影響するとの見方が支配的だった。実際、電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると、20年1月14日にWindows 7のサポートが終了した直後の20年2月は、前年同月比20.4%減と大幅に減少。3月も22.6%減となり、月を追うごとに減少幅が拡大するとみられていた。
だが、新型コロナの影響により、4月以降はテレワーク需要が顕在化。それに加えて、GIGAスクール構想によるPC導入が徐々に加速した。JEITAの調査では、20年度第1四半期は前年同期比7.4%減だったものが、第2四半期は2.4%増とプラスに転じ、GIGAスクール構想による導入が本格化した第3四半期は43.2%増と大幅な伸びを示した。そして、21年1月は前年同月比109.8%増と、Windows 7特需の駆け込みがあった前年実績の2倍という出荷台数を記録している。
MM総研の調査では、法人向けPCの出荷実績の中からGIGAスクール構想による需要を除くと、29.0%減の実績になっている。テレワーク需要の多くが個人向けPCで賄われていたことを考えると、この減少水準が20年の本来の実力値とみることもできる。テレワークとGIGAスクール構想が、国内PC需要全体を3割ほど押し上げたというわけだ。
GIGAスクール構想は、19年12月5日に閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」において、23年度までに小中学校の児童生徒1人1台の端末を整備することが盛り込まれ、同年12月13日に閣議決定した令和元年度補正予算案で予算を計上し、20年1月30日に成立した。だが、新型コロナの感染拡大の影響によって緊急時におけるオンライン学習環境の整備の遅れが表面化したこともあり、整備を前倒しで進めることを決定。当初、20年度の整備対象は小学校5・6年生と中学校1年生だけだったが、小学校と中学校全学年を対象にする計画へと変更した。児童生徒の学びを止めないための施策に位置づけられた形だ。21年度以降は、高校などでも“1人1台”の環境整備が本格化することになる。
波に乗ったレノボが
初の国内トップシェアに
GIGAスクール構想は、国内PC市場の勢力図や各社のPCビジネスにも大きな影響を及ぼしている。一つは、PCメーカーのシェアが、GIGAスクール構想によって大きく変化したことだ。
IDC Japanによると、20年の企業別の出荷台数シェアは、レノボ/NEC/富士通グループがトップで41.7%を獲得、前年から1.4ポイント拡大した。わずかな上昇のように見えるが、実はその中身が大きく変わっている。

IDC Japanではこの内訳を公表してはいないが、レノボ・ジャパンのシェアが一気に拡大しており、初めてNECのシェアを抜き、逆転したのだ。それだけではない。レノボ・ジャパンのデビット・ベネット社長は、「20年4月~12月までの期間で、レノボ・ジャパンがシェアナンバーワンになった。これは、同じレノボグループのNECパーソナルコンピュータや富士通クライアントコンピューティングの数字を含まない、レノボブランド単独のものである」とし、GIGAスクール構想が本格的にはじまった4月からの9カ月間で、法人向けPC市場と、国内PC市場全体でトップシェアを獲得したと説明している。これは05年にレノボ・ジャパンが誕生してから初めてのことだ。
レノボ・ジャパンは、NTTコミュニケーションズとの協業により、他社に先駆けてGIGAスクール構想に対応したPCと教育プラットフォームをセットにした「GIGAスクールパック」を20年3月に発表するとともに、供給体制を強化。GIGAスクール構想の大波に乗って、レノボグループのビジネスが、レノボ・ジャパンを頂点とした仕組みへと一気に変化したといえる。
レノボとNECの契約では、26年まではNECブランドのPCを販売できる内容になっているが、今回のシェア逆転の状況が、5年後の契約更新に影響を与える可能性もある。
その一方で、レノボグループの中でシェアを落としたのが富士通だ。MM総研の調査では、19年の15.9%から12.1%へと縮小。特に、GIGAスクール構想における市場シェアは5.9%にとどまった。GIGAスクール向けのPCをWindowsモデルに限定し、ラインアップを絞り込んだことでマイナスに振れた。
供給の遅れで後退する
米国PCメーカー
近年日本市場でシェアを伸ばしてきた米国メーカーに目を向けると、19年に初めてブランド別シェアで首位を獲得した日本HPの20年出荷実績は前年から2.0ポイントダウンしてシェア16.1%となり、3位のデル・テクノロジーズも同1.3ポイント減の14.2%となった(いずれもIDC Japanの調査より)。特にGIGAスクール構想が本格化した20年後半の減速感が強く、需要に十分に対応できなかった状況が浮き彫りとなった。
とはいえ、米HPや米デルの決算を見ると、最新四半期は過去最高を記録するなど、ブレーキはかかっていない。日本のGIGAスクール構想のように、教育分野における1人1台の整備は全世界で進んでおり、特に米国市場では、HPやデル、アップルといった米国PCメーカーの製品を優先的に調達する動きがみられている。その分、日本への供給が後回しになったのは否めない。実際に、関係者からは、「20年後半からは、日本HPやデルがGIGAスクールの商談に消極的になった」という声が聞かれていた。あるPCメーカー関係者は次のように語る。「GIGAスクールは、納期が年度末までと決まっている。仮に入札で受注したものの、それが年度内に納められないとなれば、地場の販売パートナーに迷惑がかかる。場合によっては、納期が守れなかったことで出入り禁止になる可能性もある。地場の販売パートナーは自治体との取引が生命線になっている場合が多い。販売パートナーとの長期的な関係を優先すれば、納期が確約できない商談はあきらめざるを得ない」
こうしてみると、前倒しになったGIGAスクール需要によって、当初の前年比3割減の業界予測は大きく覆った。そこに、コロナ禍でのサプライチェーンの断裂や、これに起因する部品不足が続く中で、過去最高水準の台数を出荷したPCメーカー各社の柔軟性の高さは評価されていい。だが、裏を返せば、供給力が試された1年であり、それが、メーカーの勢力図にも大きな影響を及ぼしたといえる。
ノートPCの構成比が9割超え
もう一つ注目すべき影響が、ノートPCへの需要の集中だ。JEITAによると、21年1月の出荷台数全体に占めるノートPCの構成比は92.3%。20年1月のノートPCの構成比が72.3%であったことに比べると、この1年で2割も上昇していることになる。テレワークでノートPCの導入が促進されたことも理由の一つだが、GIGAスクール構想では、Windows搭載のノートPCやChromebook、iPadの中から、それぞれに定められた仕様のデバイスが導入の対象となっており、同構想による導入が促進されれば、自然とノートPCの構成比は高まることになる。実際、21年1月のノートPCの出荷実績は前年同月比167.8%増と2.6倍にもなっている。中でもGIGAスクール向け仕様として定められている「ディスプレイサイズが9~14型」に当てはまる「モバイルノート」の集計を見ると、前年同月比740.7%増の83万9000台と、8.4倍にも増加しているのだ。ここからも、GIGAスクール構想による導入が反映されたことが分かる。

2020年(1月~12月)の国内PC市場は想定外の成長を遂げた。それを支えたのが、小中学校において児童生徒1人あたり1台ずつPCを整備する「GIGAスクール構想」である。最低でも750万台以上の新たなPC需要が創出され、その効果は21年3月まで継続。さらに4月以降も、高校を対象にPCの導入が促進されることになる。GIGAスクール構想は、国内PC市場にプラスの効果を及ぼしただけでなく、今後の市場勢力図やPCビジネスの変化にまで影響を与える「大波」となった。GIGAスクール構想をきっかけとした国内PC市場の変化を見ていこう。
(取材・文/大河原克行 編集/前田幸慧)
PCメーカーの勢力図に 明確な変化
過去最高を記録した2020年のPC出荷
調査会社の発表をみると、2020年の国内PC市場は、想定外の好調ぶりとなったことがうかがえる。IDC Japanは、今年2月に発表した調査で、20年の国内PCの出荷台数は前年比0.1%減の1734万台で微減の実績となったものの、「20年は19年に続いて記録的な出荷数を達成した」と総括した。同社ではこの1年の状況について、「19年はWindows 7の延長サポート終了前の買い替え需要が発生し、国内PC市場は過去最大規模を記録。20年はその反動減が見込まれていた」としながら、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大がきっかけとなり、在宅での仕事や学習にPCを使用するケースが急拡大したことに加えて、GIGAスクール構想の始動により、コンバーチブルノートブックPCやデタッチャブルタブレットの特需が発生した」と説明している。
一方、MM総研は、今年3月に発表した調査で、20年の国内PCの出荷台数は前年比1.3%増の1591万台となり、同社が調査を開始した1995年以来、過去最高だった19年を上回り、出荷台数記録を更新したと明らかにした。同社では、「20年の国内PC市場は、新型コロナ対策のための家庭からの支出と、教育市場向けの政府支出であるGIGAスクール構想に支えられた」と分析。Windows 7のサポート終了に伴う特需を超える需要がGIGAスクールによって発生したと指摘した。
業界内では当初、20年の需要は前年比3割減にとどまるとの予測が出るなど、Windows 7特需の反動が大きく影響するとの見方が支配的だった。実際、電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると、20年1月14日にWindows 7のサポートが終了した直後の20年2月は、前年同月比20.4%減と大幅に減少。3月も22.6%減となり、月を追うごとに減少幅が拡大するとみられていた。
だが、新型コロナの影響により、4月以降はテレワーク需要が顕在化。それに加えて、GIGAスクール構想によるPC導入が徐々に加速した。JEITAの調査では、20年度第1四半期は前年同期比7.4%減だったものが、第2四半期は2.4%増とプラスに転じ、GIGAスクール構想による導入が本格化した第3四半期は43.2%増と大幅な伸びを示した。そして、21年1月は前年同月比109.8%増と、Windows 7特需の駆け込みがあった前年実績の2倍という出荷台数を記録している。
MM総研の調査では、法人向けPCの出荷実績の中からGIGAスクール構想による需要を除くと、29.0%減の実績になっている。テレワーク需要の多くが個人向けPCで賄われていたことを考えると、この減少水準が20年の本来の実力値とみることもできる。テレワークとGIGAスクール構想が、国内PC需要全体を3割ほど押し上げたというわけだ。
GIGAスクール構想は、19年12月5日に閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」において、23年度までに小中学校の児童生徒1人1台の端末を整備することが盛り込まれ、同年12月13日に閣議決定した令和元年度補正予算案で予算を計上し、20年1月30日に成立した。だが、新型コロナの感染拡大の影響によって緊急時におけるオンライン学習環境の整備の遅れが表面化したこともあり、整備を前倒しで進めることを決定。当初、20年度の整備対象は小学校5・6年生と中学校1年生だけだったが、小学校と中学校全学年を対象にする計画へと変更した。児童生徒の学びを止めないための施策に位置づけられた形だ。21年度以降は、高校などでも“1人1台”の環境整備が本格化することになる。
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