Special Feature
AI時代を見据えたクラウドの現在地 第2回 国産クラウドの動向を探る GPU活用やデータ管理、生成AIに商機あり
2024/02/05 09:00
週刊BCN 2024年02月05日vol.2001掲載
創刊2000号記念連載の第2回は、ハイパースケーラーと呼ばれる外資大手のパブリッククラウドとの差別化を模索する国産クラウドサービスの動向を探る。インフラの規模や提供している機能の数では海外勢と大きな差がある国産クラウドだが、国内企業や自治体のクラウド移行においては、既存のオンプレミスの資産との連携や、プライベートな基盤が必要となるため、ハイパースケーラーのサービスでは対応できないニーズは確実に存在する。また、海外に置くことが難しいデータの分析やAI活用の基盤として、あるいは経済安全保障の観点から、国内で完結するITインフラへの注目度も高まっている。厳しい競争環境の中、国産クラウドはどのように生き残りを図り、成長の道筋を描くのか。
(取材・文/安藤章司、堀 茜)
さくらインターネット
さくらインターネットは、生成AIなどで必要となるGPUクラウドに力を入れるほか、中央省庁や自治体が使うことを想定したガバメントクラウドのサービスに参入することで、自社のクラウドサービスの拡充を進めている。GPUクラウドでは、AI用の計算資源を国内に確保することを目的とした経済産業省の補助金を活用し、これによって基盤を整備した第1弾サービスとして2024年1月に「高火力PHY(ファイ)」の提供を始めた。ガバメントクラウドでは、25年度末までに技術要件を満たすことを条件に23年11月にデジタル庁から認定を受けた。
さくらインターネット 田中邦裕 社長
GPUクラウドの需要増を起爆剤にするとともに、ガバメントクラウドの認定を受けることで、北海道で同社が運営する石狩データセンター(DC)を主要拠点とした国産クラウドサービスの普及促進に弾みをつける。
クラウドサービスの拡大に取り組む背景には、外資系ベンダー優勢の中にあって、「国内ベンダーによるサービスの選択肢を提供する」(田中邦裕社長)ことで、主力事業と位置づけるデジタルインフラ事業を発展させる狙いがある。
同社が捉えるデジタルインフラとは、▽クラウドサービス▽データ分析▽AI活用――の三つのデジタル基盤を指し、これらの領域で海外勢に対して劣勢にある国内ベンダーの存在感を高めていくことを目指す。折しも経済産業省では、自動運転やドローン物流などのデジタル技術を活用する基盤として「デジタルライフライン全国総合整備計画」を推進しており、田中社長はこれを「令和版の日本列島改造論」と受け取り、官需や民需に応えていく。
同社は、クラウドサービスの販売を担うビジネスパートナーを認定する仕組みはこれまで設けていなかったが、24年4月をめどにパートナー認定制度を始める準備を進めている。自治体や民間企業の業務アプリ部分をパートナーに担ってもらい、さくらインターネットはクラウド基盤サービスを提供するかたちで役割分担を想定している。競争相手となるハイパースケーラーは、すでに多くのビジネスパートナーを擁しており、後発とはなるものの「ガバメントクラウドやGPUクラウドの需要増をきっかけにパートナー獲得を進めていく」(田中社長)と、クラウド市場の変化のタイミングで間接販売の販路を開拓していく。
二つめのデータ分析については、人工衛星のデータ分析基盤を主軸に据えている。さくらインターネットグループでは、人工衛星が撮影した画像データを分析する「Tellus(テルース)」を手がけており、例えば農作物の生育状況や水産養殖の環境監視、駐車場の混雑具合、災害時の被害状況の確認などで活用されている。TellusはASEANをはじめ海外ユーザーの開拓も進んでおり、衛星画像をAIで分析する際に同社が提供するGPUクラウドの利用促進も期待できる。
現在の日本は欧米に比べて人件費が安く、アジア地域の中で政治経済の情勢が比較的安定していることから、田中社長は「アジアのAI研究開発やサービス提供の拠点として日本が選ばれる可能性は高い」とみている。衛星画像分析のTellusの主な進出先となっているASEAN諸国でも、AI計算資源の調達先として米国、中国に続く第3の選択肢として「日本発の当社GPUクラウドのサービスがシェアを伸ばす余地は大きい」と予測する。
クラウドサービスは継続的な収益が見込めるリカーリング型のビジネスモデルであり、国内外の顧客基盤が大きくなれば「将来的に1000億円規模を投資し、アジアで最も成長率の大きいクラウドサービスベンダーになれる可能性がある」と意欲を示す。インターネットイニシアティブ
国内のITサービス事業者の中でも、最初期の段階からクラウドサービスの提供を始めていたのが、インターネットイニシアティブ(IIJ)だ。09年に開始した「IIJ GIO(ジオ)」は、オンプレミス環境の移行先となるプライベートクラウドとしての用途を入り口に、パブリッククラウドの活用にも広げていく流れで利用が拡大しており、2桁成長を継続しているという。クラウドの国内市場のニーズについて、同社の勝栄二郎社長は「欧米と比べるとまだまだクラウド利用率は低く、発展する余地が相当ある」とみる。
IIJ 勝 栄二郎 社長
同社が力を入れているのは、自社のクラウド基盤を提供することに加え、他社のクラウドとセキュアに情報のやり取りができるようにするマルチクラウド環境の支援だ。23年にサービスを開始した「IIJクラウドデータプラットフォーム」は、複数のクラウド環境に分散しているデータを簡単かつセキュアな連携を可能にする。ハイパースケーラーのクラウドや、企業が利用する多くのSaaSも含めて、あらゆるデータを一元管理できるとしている。
勝社長は「ほとんどの大企業はマルチクラウド環境を利用しているが、各所に散らばるデータを連携しどう活用するかが企業の行く末を左右するところまできている」と状況を解説。クラウドデータプラットフォームは、マルチクラウドのデータを安全につなぎたい企業のニーズに合致し、引き合いが非常に増えているという。
国内事業者としては有数のクラウド基盤を持つ同社だが、ハイパースケーラーの規模とは圧倒的な差がある。勝社長は「本当は(外資ベンダーに)対抗したい。当社は高い技術力を有している」と対抗心を見せつつも、マルチクラウドベンダーとして、さまざまな環境のクラウドを活用してシステムを構築し、顧客のニーズに柔軟に対応できる点を特徴として強調した。「規模や機能面では外資ベンダーの方が上だと思うが、それぞれの特徴をうまく利用しながら、国産クラウドと組み合わせるのが一番いいのではないか」
また、生成AIに大きな注目が集まり、今後企業での利用が進んでいくとみられる中、AIモデルの開発や、AIを活用したアプリケーションの実行のための基盤としても、クラウドの需要が伸びていくと予想されている。勝社長は、AI活用にあたりデータのセキュリティをどう担保していくかという新たな課題が出てくると指摘。「AIの悪用をどう防いでいくかという観点で、技術やノウハウを蓄積していく必要がある」。この先のクラウドの進化については「AIがどう進化していき、AIによってどういう新しいサービスが生み出されるかによって、これから10年間、(クラウドの発展の方向性は)大きく変わっていく」と見通す。NEC
NECのクラウド戦略は、汎用性と独自性を両立させることを基本としている。「Amazon Web Services(AWS)」や「Azure」などのサービスと、自社DCに構築したオンプレミス環境を相互接続させるとともに、23年7月には独自の生成AIサービス「NEC Generative AI Service」をスタート。ユーザー企業の視点で見れば、外部に出したくないデータをオンプレミス環境に置きつつ、クラウド上にあるさまざまなアプリやサービスを享受できる仕組みをNECから得られることになる。
NECでは、▽エッジコンピューティング▽ネットワーク▽IaaS▽PaaS▽SaaS――の五つの階層からなる「NEC Digital Platform(NDP)」を構築。オンプレミス環境や外部パブリッククラウドとの連携からなる共通基盤と位置付けており、DX推進においての課題解決に必要な要素をオファリングとして体系化して提供している。NDP事業は初期投資がかさんだことから23年3月期まで赤字が続いたが、本年度(24年3月期)は売上高1510億円、営業利益率4.9%の黒字に転換する見込み。本年度から生成AIサービスも加わったことから、25年度にはNDP事業の売上高3284億円、営業利益率13.1%を目標に掲げる。
千葉県にある自社運営の印西DCを中心に、オンプレミス環境や生成AIを運用するGPUサーバー基盤を構築。汎用的なパブリッククラウドサービスでAWSなど大手との連携を推し進めると同時に、ソフトウェア面では大規模言語モデルを独自に開発。NECならではの特色を強く打ち出している。GPUサーバーの構築ではおよそ100億円の資金を投じて1000基近いGPUを使った“AIスパコン”を23年3月に稼働させている。
NEC 吉崎敏文 執行役 Corporate EVP兼CDO
オンプレミス環境を個別SIで対応するとコストがかさみ、競争力を失ってしまうため、NECではおよそ4年を費やしてオファリング体系を整備。例えば、NECが強みとする顔認証システムを提供する際に、ユーザーの求めるままに個別SIで対応してしまうと、個別案件ごとに最適化された顔認証エンジンを重複して開発することになる。基本性能は同じでも細かな部分の仕様が異なるエンジンをいくつも稼働させるのではなく、統一されたエンジン仕様をベースにオファリング体系を構築した。吉崎敏文・執行役Corporate EVP兼CDOは、「コスト競争力を高め、利益率の向上につなげた」と話す。
生成AIについても、個別に構築するとコストが膨らんでしまうため、せっかくの小型軽量の生成AIエンジンのよさが埋もれてしまう。吉崎執行役は「RFP(提案依頼書)を起点とした従来型のSIから、ユーザー企業のビジネス戦略の企画立案をともに行うオファリング起点の比重を高めていく」とし、業種・業態に合ったオファリング整備を推し進めることで費用対効果が高く、収益性もよいビジネスに育てていく考えだ。
(取材・文/安藤章司、堀 茜)

さくらインターネット
GPUクラウドを起爆剤にガバメントクラウド認定で官需狙う
さくらインターネットは、生成AIなどで必要となるGPUクラウドに力を入れるほか、中央省庁や自治体が使うことを想定したガバメントクラウドのサービスに参入することで、自社のクラウドサービスの拡充を進めている。GPUクラウドでは、AI用の計算資源を国内に確保することを目的とした経済産業省の補助金を活用し、これによって基盤を整備した第1弾サービスとして2024年1月に「高火力PHY(ファイ)」の提供を始めた。ガバメントクラウドでは、25年度末までに技術要件を満たすことを条件に23年11月にデジタル庁から認定を受けた。
GPUクラウドの需要増を起爆剤にするとともに、ガバメントクラウドの認定を受けることで、北海道で同社が運営する石狩データセンター(DC)を主要拠点とした国産クラウドサービスの普及促進に弾みをつける。
クラウドサービスの拡大に取り組む背景には、外資系ベンダー優勢の中にあって、「国内ベンダーによるサービスの選択肢を提供する」(田中邦裕社長)ことで、主力事業と位置づけるデジタルインフラ事業を発展させる狙いがある。
同社が捉えるデジタルインフラとは、▽クラウドサービス▽データ分析▽AI活用――の三つのデジタル基盤を指し、これらの領域で海外勢に対して劣勢にある国内ベンダーの存在感を高めていくことを目指す。折しも経済産業省では、自動運転やドローン物流などのデジタル技術を活用する基盤として「デジタルライフライン全国総合整備計画」を推進しており、田中社長はこれを「令和版の日本列島改造論」と受け取り、官需や民需に応えていく。
4月めどにパートナー制度を始動
クラウドサービスでは、ガバメントクラウドの認定を受けることで官需の取り込みにも力を入れる。全国の自治体によるクラウド移行の需要を見込んでおり、市町村の住民基本台帳関連業務など基幹系システム構築の経験が豊富なSIerとの連携を深める。技術要件を満たすのに当たって、すでにガバメントクラウドの認定サービスを提供している日本マイクロソフトの一部製品を活用するなどの協力を得る。同社は、クラウドサービスの販売を担うビジネスパートナーを認定する仕組みはこれまで設けていなかったが、24年4月をめどにパートナー認定制度を始める準備を進めている。自治体や民間企業の業務アプリ部分をパートナーに担ってもらい、さくらインターネットはクラウド基盤サービスを提供するかたちで役割分担を想定している。競争相手となるハイパースケーラーは、すでに多くのビジネスパートナーを擁しており、後発とはなるものの「ガバメントクラウドやGPUクラウドの需要増をきっかけにパートナー獲得を進めていく」(田中社長)と、クラウド市場の変化のタイミングで間接販売の販路を開拓していく。
二つめのデータ分析については、人工衛星のデータ分析基盤を主軸に据えている。さくらインターネットグループでは、人工衛星が撮影した画像データを分析する「Tellus(テルース)」を手がけており、例えば農作物の生育状況や水産養殖の環境監視、駐車場の混雑具合、災害時の被害状況の確認などで活用されている。TellusはASEANをはじめ海外ユーザーの開拓も進んでおり、衛星画像をAIで分析する際に同社が提供するGPUクラウドの利用促進も期待できる。
1000億円規模の投資も可能に
AI活用の拡大で需要増が期待されるGPUクラウドでは、経済安全保障政策の一環である経済産業省の「クラウドプログラム」による補助金を活用し、向こう3年で130億円を投資する予定。まとまった規模のAI計算資源の確保が、その国や地域の産業発展に大きな影響を与えると見られる中、中核部品となる「NVIDIA H100 Tensor コア GPU」を2000基余り確保し、さまざまな産業のAI利用を支えるとしている。現在の日本は欧米に比べて人件費が安く、アジア地域の中で政治経済の情勢が比較的安定していることから、田中社長は「アジアのAI研究開発やサービス提供の拠点として日本が選ばれる可能性は高い」とみている。衛星画像分析のTellusの主な進出先となっているASEAN諸国でも、AI計算資源の調達先として米国、中国に続く第3の選択肢として「日本発の当社GPUクラウドのサービスがシェアを伸ばす余地は大きい」と予測する。
クラウドサービスは継続的な収益が見込めるリカーリング型のビジネスモデルであり、国内外の顧客基盤が大きくなれば「将来的に1000億円規模を投資し、アジアで最も成長率の大きいクラウドサービスベンダーになれる可能性がある」と意欲を示す。
インターネットイニシアティブ
マルチクラウドの活用支援とデータ保護規制への対応で存在感
国内のITサービス事業者の中でも、最初期の段階からクラウドサービスの提供を始めていたのが、インターネットイニシアティブ(IIJ)だ。09年に開始した「IIJ GIO(ジオ)」は、オンプレミス環境の移行先となるプライベートクラウドとしての用途を入り口に、パブリッククラウドの活用にも広げていく流れで利用が拡大しており、2桁成長を継続しているという。クラウドの国内市場のニーズについて、同社の勝栄二郎社長は「欧米と比べるとまだまだクラウド利用率は低く、発展する余地が相当ある」とみる。
同社が力を入れているのは、自社のクラウド基盤を提供することに加え、他社のクラウドとセキュアに情報のやり取りができるようにするマルチクラウド環境の支援だ。23年にサービスを開始した「IIJクラウドデータプラットフォーム」は、複数のクラウド環境に分散しているデータを簡単かつセキュアな連携を可能にする。ハイパースケーラーのクラウドや、企業が利用する多くのSaaSも含めて、あらゆるデータを一元管理できるとしている。
勝社長は「ほとんどの大企業はマルチクラウド環境を利用しているが、各所に散らばるデータを連携しどう活用するかが企業の行く末を左右するところまできている」と状況を解説。クラウドデータプラットフォームは、マルチクラウドのデータを安全につなぎたい企業のニーズに合致し、引き合いが非常に増えているという。
国内事業者としては有数のクラウド基盤を持つ同社だが、ハイパースケーラーの規模とは圧倒的な差がある。勝社長は「本当は(外資ベンダーに)対抗したい。当社は高い技術力を有している」と対抗心を見せつつも、マルチクラウドベンダーとして、さまざまな環境のクラウドを活用してシステムを構築し、顧客のニーズに柔軟に対応できる点を特徴として強調した。「規模や機能面では外資ベンダーの方が上だと思うが、それぞれの特徴をうまく利用しながら、国産クラウドと組み合わせるのが一番いいのではないか」
自国ベンダーが信頼される環境を
クラウド事業者としての自社の強みの一つとして、グローバルでデータ規制に対応できる体制を持っている点も挙げる。同社はEUとAPEC(アジア太平洋経済協力会議)がそれぞれ定める、個人データ保護規制の基準を満たすベンダー向けの認証をいずれも取得している。勝社長は、個人データの取り扱いを域内ベンダーに任せるEUの事例に触れ、国内でも自治体などで同様のポリシーが策定されていく可能性があると展望。クラウドを単にコストや機能だけで選ぶのでなはなく、国内で自国ベンダーが信頼される環境を提供する重要性を指摘し、「将来、当社を含む国内クラウド事業者に重要なデータを預けていただけるのではないか」と期待を寄せる。また、生成AIに大きな注目が集まり、今後企業での利用が進んでいくとみられる中、AIモデルの開発や、AIを活用したアプリケーションの実行のための基盤としても、クラウドの需要が伸びていくと予想されている。勝社長は、AI活用にあたりデータのセキュリティをどう担保していくかという新たな課題が出てくると指摘。「AIの悪用をどう防いでいくかという観点で、技術やノウハウを蓄積していく必要がある」。この先のクラウドの進化については「AIがどう進化していき、AIによってどういう新しいサービスが生み出されるかによって、これから10年間、(クラウドの発展の方向性は)大きく変わっていく」と見通す。
NEC
汎用性と独自性を両立 オンプレミスと生成AIで特色を出す
NECのクラウド戦略は、汎用性と独自性を両立させることを基本としている。「Amazon Web Services(AWS)」や「Azure」などのサービスと、自社DCに構築したオンプレミス環境を相互接続させるとともに、23年7月には独自の生成AIサービス「NEC Generative AI Service」をスタート。ユーザー企業の視点で見れば、外部に出したくないデータをオンプレミス環境に置きつつ、クラウド上にあるさまざまなアプリやサービスを享受できる仕組みをNECから得られることになる。NECでは、▽エッジコンピューティング▽ネットワーク▽IaaS▽PaaS▽SaaS――の五つの階層からなる「NEC Digital Platform(NDP)」を構築。オンプレミス環境や外部パブリッククラウドとの連携からなる共通基盤と位置付けており、DX推進においての課題解決に必要な要素をオファリングとして体系化して提供している。NDP事業は初期投資がかさんだことから23年3月期まで赤字が続いたが、本年度(24年3月期)は売上高1510億円、営業利益率4.9%の黒字に転換する見込み。本年度から生成AIサービスも加わったことから、25年度にはNDP事業の売上高3284億円、営業利益率13.1%を目標に掲げる。
千葉県にある自社運営の印西DCを中心に、オンプレミス環境や生成AIを運用するGPUサーバー基盤を構築。汎用的なパブリッククラウドサービスでAWSなど大手との連携を推し進めると同時に、ソフトウェア面では大規模言語モデルを独自に開発。NECならではの特色を強く打ち出している。GPUサーバーの構築ではおよそ100億円の資金を投じて1000基近いGPUを使った“AIスパコン”を23年3月に稼働させている。
オファリングと生成AIを強みに
NECが開発した生成AIのパラメーター数は約130億で、世界トップクラスの大規模言語モデルの10分の1以下の小型軽量のエンジンであるのが特徴。業種・業務に特化させることで実用十分な性能を発揮する。汎用的なクラウド型のAIサービスと異なり、顧客の業務ごとに個別に構築することが可能で、機密漏えいが許されない分野でも安全に生成AIを活用できるようになる。汎用的な生成AIサービスはAzureなどが提供するサービスを活用しつつ、NECならではの業務特化型、小型軽量のオンプレミス型の生成AIサービスも付加することで競争力を高めるのが狙いだ。
オンプレミス環境を個別SIで対応するとコストがかさみ、競争力を失ってしまうため、NECではおよそ4年を費やしてオファリング体系を整備。例えば、NECが強みとする顔認証システムを提供する際に、ユーザーの求めるままに個別SIで対応してしまうと、個別案件ごとに最適化された顔認証エンジンを重複して開発することになる。基本性能は同じでも細かな部分の仕様が異なるエンジンをいくつも稼働させるのではなく、統一されたエンジン仕様をベースにオファリング体系を構築した。吉崎敏文・執行役Corporate EVP兼CDOは、「コスト競争力を高め、利益率の向上につなげた」と話す。
生成AIについても、個別に構築するとコストが膨らんでしまうため、せっかくの小型軽量の生成AIエンジンのよさが埋もれてしまう。吉崎執行役は「RFP(提案依頼書)を起点とした従来型のSIから、ユーザー企業のビジネス戦略の企画立案をともに行うオファリング起点の比重を高めていく」とし、業種・業態に合ったオファリング整備を推し進めることで費用対効果が高く、収益性もよいビジネスに育てていく考えだ。
創刊2000号記念連載の第2回は、ハイパースケーラーと呼ばれる外資大手のパブリッククラウドとの差別化を模索する国産クラウドサービスの動向を探る。インフラの規模や提供している機能の数では海外勢と大きな差がある国産クラウドだが、国内企業や自治体のクラウド移行においては、既存のオンプレミスの資産との連携や、プライベートな基盤が必要となるため、ハイパースケーラーのサービスでは対応できないニーズは確実に存在する。また、海外に置くことが難しいデータの分析やAI活用の基盤として、あるいは経済安全保障の観点から、国内で完結するITインフラへの注目度も高まっている。厳しい競争環境の中、国産クラウドはどのように生き残りを図り、成長の道筋を描くのか。
(取材・文/安藤章司、堀 茜)
さくらインターネット
さくらインターネットは、生成AIなどで必要となるGPUクラウドに力を入れるほか、中央省庁や自治体が使うことを想定したガバメントクラウドのサービスに参入することで、自社のクラウドサービスの拡充を進めている。GPUクラウドでは、AI用の計算資源を国内に確保することを目的とした経済産業省の補助金を活用し、これによって基盤を整備した第1弾サービスとして2024年1月に「高火力PHY(ファイ)」の提供を始めた。ガバメントクラウドでは、25年度末までに技術要件を満たすことを条件に23年11月にデジタル庁から認定を受けた。
さくらインターネット 田中邦裕 社長
GPUクラウドの需要増を起爆剤にするとともに、ガバメントクラウドの認定を受けることで、北海道で同社が運営する石狩データセンター(DC)を主要拠点とした国産クラウドサービスの普及促進に弾みをつける。
クラウドサービスの拡大に取り組む背景には、外資系ベンダー優勢の中にあって、「国内ベンダーによるサービスの選択肢を提供する」(田中邦裕社長)ことで、主力事業と位置づけるデジタルインフラ事業を発展させる狙いがある。
同社が捉えるデジタルインフラとは、▽クラウドサービス▽データ分析▽AI活用――の三つのデジタル基盤を指し、これらの領域で海外勢に対して劣勢にある国内ベンダーの存在感を高めていくことを目指す。折しも経済産業省では、自動運転やドローン物流などのデジタル技術を活用する基盤として「デジタルライフライン全国総合整備計画」を推進しており、田中社長はこれを「令和版の日本列島改造論」と受け取り、官需や民需に応えていく。
(取材・文/安藤章司、堀 茜)

さくらインターネット
GPUクラウドを起爆剤にガバメントクラウド認定で官需狙う
さくらインターネットは、生成AIなどで必要となるGPUクラウドに力を入れるほか、中央省庁や自治体が使うことを想定したガバメントクラウドのサービスに参入することで、自社のクラウドサービスの拡充を進めている。GPUクラウドでは、AI用の計算資源を国内に確保することを目的とした経済産業省の補助金を活用し、これによって基盤を整備した第1弾サービスとして2024年1月に「高火力PHY(ファイ)」の提供を始めた。ガバメントクラウドでは、25年度末までに技術要件を満たすことを条件に23年11月にデジタル庁から認定を受けた。
GPUクラウドの需要増を起爆剤にするとともに、ガバメントクラウドの認定を受けることで、北海道で同社が運営する石狩データセンター(DC)を主要拠点とした国産クラウドサービスの普及促進に弾みをつける。
クラウドサービスの拡大に取り組む背景には、外資系ベンダー優勢の中にあって、「国内ベンダーによるサービスの選択肢を提供する」(田中邦裕社長)ことで、主力事業と位置づけるデジタルインフラ事業を発展させる狙いがある。
同社が捉えるデジタルインフラとは、▽クラウドサービス▽データ分析▽AI活用――の三つのデジタル基盤を指し、これらの領域で海外勢に対して劣勢にある国内ベンダーの存在感を高めていくことを目指す。折しも経済産業省では、自動運転やドローン物流などのデジタル技術を活用する基盤として「デジタルライフライン全国総合整備計画」を推進しており、田中社長はこれを「令和版の日本列島改造論」と受け取り、官需や民需に応えていく。
この記事の続き >>
- 4月めどにパートナー制度を始動
- 1000億円規模の投資も可能に
- インターネットイニシアティブ マルチクラウドの活用支援とデータ保護規制への対応で存在感
- 自国ベンダーが信頼される環境を
- NEC 汎用性と独自性を両立 オンプレミスと生成AIで特色を出す
- オファリングと生成AIを強みに
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