Letters from the World

ITとオリンピック

2004/09/27 15:37

週刊BCN 2004年09月27日vol.1057掲載

 アテネオリンピックが終了した。米国での中継は米国選手が活躍する時か、各競技の決勝戦あたりに限られ、素晴らしい活躍を見せていた日本選手の姿を見る機会が少なかったのは少々残念だ。テレビ中継を見ていて、あらゆる競技でIT技術の利用が急速に進んでいたことに驚いた。光学機器による非常に精密な計測は当然としても、各競技の判定に始まり、その集計、さらには大会進行のスケジュール管理にも専用のシステムが使われていたという。見える部分も見えない部分も、選手も運営側も観客も、何らかの形でIT技術の恩恵を受けているのが今のスポーツ界なのだろう。

 一方今大会ではドーピング関連の話題も多かった。会期前からドーピング違反はあちこちで取りざたされ、実際に検査によって結果を剥奪された選手も多い。これらの事情を鑑みるに、今後は最先端の技術を駆使し、更に容易にドーピングチェックを行えるようになることを期待したい。競技場に入る前に検査官が選手のIDカードをチェックするだけで、その選手が規則に違反していないかどうか判るようにするなどの技術は早く出てきて欲しいものである。既に医療分野では、血圧や血糖値計測などで皮膚外からの検査を実現している。ドーピング検査における同種の技術の実現も決して夢物語ではないだろう。

 選手の努力の結晶であるはずのメダルが、非合法薬物で汚されるのを防ぐためなら、関係者は先端技術の導入をためらうべきではない。本来先端技術とは、人々の生活を向上させ幸せになるために存在すべきだし、それはたとえスポーツ界といえども同様であるはずだ。「商業五輪」と呼ばれたのは1984年のロスだった。オリンピックの開催とその公正な実施にIT技術は必須となりつつあることを考えると、そのうちに「IT五輪」などと呼ばれるようになるのかもしれない。そのときには一点の曇りもない、クリーンなオリンピックが実現していることを切に願う。(米ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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