Letters from the World

ITとヒューマンファクター

2005/02/28 15:37

週刊BCN 2005年02月28日vol.1078掲載

 先日、仕事のためのサンプルを日本へ発送する機会があり、日本の運送会社に依頼してみた。これまでは窓口が多く便利な米国の大手運送会社をよく利用していたのだが、今回たまたま日系の業者を使ってみて、企業のIT導入に関していろいろと考えることができたのは思わぬ収穫だった。

 週末の混雑に影響されたこともあり、遠方にある営業所に荷物を持ち込むことができたのは終業時間ぎりぎり。しかし対応してくれた係の人は帰り支度を中断し、心配りの行き届いたきめ細かい対応をしてくれた。

 事務所奥で駐在員とおぼしき男性社員が世間話に興じているのを横に、てきぱきと出荷処理をしてくれる姿は本当に好感が持てるものであった。

 運送業がIT技術によるデータベース化や、ERP(統合基幹業務システム)の恩恵を最も受けている業種の1つであることは言うまでもない。

 今やオンラインでの荷物の追跡は当たり前。見積りから集荷、そして配達まで全てがITによって管理されている。業務内容は以前に比べ大きく改善されており、しかも高効率化されている。

 しかし客が来たのに談笑を続ける社員が運用するシステムでは、そのシステムがいかに素晴らしいものであっても、顧客の満足には決して繋がるまい。窓口での好印象を維持できる社員が対応してくれるなら、きっとその会社の評価は高くなるだろうし、企業としても成長を続けるだろう。

 つまるところ、いかに素晴らしいシステムであっても、それを使うのは人間だ。システムが独り歩きして接客することはあり得ず、どこかでやはりヒューマンファクターが大きな要因を占めることとなる。ITはあくまで人間のお手伝いしかできないのだ。

 今回の経験は、その厳然たる事実を改めて教えてくれることになった。高度なシステムにも勝る気配りの行き届いた窓口の担当女史に、改めて深くお礼を申し上げたい。(ニューヨーク発:ジャーナリスト 田中秀憲)
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