旅の蜃気楼

各地の祭り、それぞれの趣

2006/12/11 15:38

週刊BCN 2006年12月11日vol.1166掲載

【秩父発】秩父の夜祭を見た。結構冷え込む師走の夜、打ち上げられる大輪に歓声を上げた。「たまやー」とは叫ばなかったが、赤や黄色、緑の花火の美しさに見とれながら、目の覚めるような「ズドーン」の響きに、秩父中の人が酔った。人口約7万人の秩父市は山で囲まれた狭い盆地。鎌倉時代から栄えた由緒ある街だ。そこに7000発の花火が打ちあがる。山に反響した爆発音は、身体を震わせる。集まった人の数も半端じゃない。今年は29万人だ。日本三大曳山祭りとあって、関東中から人が集まってくる。秩父の夜祭は毎年、12月2-3日だ。2日は宵宮。3日が大祭で夜7時から明け方の冷え込みまでが本番だ。山車(屋台と笠鉾)は6台ある。山車が急坂のだんご坂を曳き上げられる。男たちのエネルギーがここで爆発する。桟敷席は1万円也。価値あり。

▼曳山祭りの代表格は京都の祇園祭りだ。21歳の時に見た。人を掻き分けて曳山(鉾)を見た。大きな鉾をゆっくり引き回す様子はあまり感動しなかった。なんとものんびりした元気のない祭りだと感じた。これが雅の祭りかと納得して、細い路地をめぐった。こちらは楽しかった。路地をきょろきょろすると、いろんな発見があった。祭りの人ごみに時々ぶつかりながら、一日中、歩き回った。

▼岐阜の高山祭りは37歳で見た。岐阜出身なのに、高山祭りを見たことがなかった。それを知った取材先の企業が高山祭りの前日に講演会を開いてくれた。春と秋があって春は日枝神社、秋は桜山八幡宮である。春の祭りを見た。疏水のような川に沿って、整った街並みが続く。風情がある。…どうも地元贔屓をしているようだ。

▼話を秩父に戻す。奥武蔵から秩父の山域を登り詰めて8年になる。どこから見ても武甲山は見える。その山頂には雪の降った時に登った。美しかった。そこに御嶽神社がある。秩父夜祭には武甲山の男神と秩父の女神が出会うという。粋な話だ。武甲山は秩父の霊山と表記してある。夜祭の花火は武甲山を背にして上がる。明け方になると武甲山が姿を現す。山の中ほどから上にかけてざっくり削り取られている。なんとも無惨な姿なのだ。やってはならないことがある。(BCN社長・奥田喜久男)
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