旅の蜃気楼

旅は「ジェットストリーム」に乗って

2008/03/31 15:38

週刊BCN 2008年03月31日vol.1229掲載

【本郷発】「ジェットストリーム」。城達也のナレーションが心地よく耳に響く。「あぁ、旅に出たいな。世界を飛び回ってみたい」。国外を旅するには、お金、時間、きっかけが必要だった。若いころ、それは人から与えられるものだと思っていた。変化は28歳のときにやってきた。父の死がきっかけだった。母はすでにあの世に旅立っていた。「僕をつくった親は2人しかいないんだ」としみじみ思った。世界とは狭いものだ。歴史は点でできているとも思った。このとき、寂寞とした空間に心が浮いている感じがした。深い孤独感のようなものだった。時空を超えた宇宙観に触れた感じがした。旅はそこから始まった。

▼エールフランスに乗ったのが初めての国際線の旅だ。アンカレッジ経由でパリに入った。新鮮だった。まるで、きのうの出来事のように憶えている。地図を頼りにロダン美術館へ行った。実物の『ラ・パンセ』を目の当たりにして大感動。シャンゼリゼ通りのカフェでコーヒーを飲んだ。タバコを吸うのに、灰皿を頼んだら、お店のおじさんが、指で地面を指し示した。意味がわかって、にやっとしたら、ウィンクを返してきた。少し離れたテーブルでおじいさんが一人で赤ワインを飲んでいた。ワイングラスの脇に白いふわふわしたものが、山になっている。あんな酒の肴は見たことがない。よく観察すると、フランスパンの中身だった。以来、私にとってフランスパンは特別の存在になった。

▼3月22日、台湾の新総統が決まった。その日、私はシンガポールのオーチャード通りを歩いていた。世界から人が集まってたいへんな賑わいだ。高島屋の地下でパンを買った。もちろん例のパンである。街を回るhippoバスに乗った。乗り降り自由の観光バスだ。いろんな人種の人が乗り合わせた。見る街も、リトルインディア、リトルアラブ、リトルチャイナといろいろだ。▼台湾の人たちは独立を選択しなかった。地球は乗り合いバスだ。宇宙の彼方では、ステーション『きぼう』のスペースがつくられ始めた。世界はひとつだ。「夜の帳(とばり)がおりるころ…」。城達也なら宇宙の旅をどう表現するのだろうか。(BCN社長・奥田喜久男)
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