旅の蜃気楼

アラブの紛争地域を往く(上)

2009/02/09 15:38

週刊BCN 2009年02月09日vol.1271掲載

【パレスチナ発】パン!パン!ヒューッと音がしたと思ったら、そいつは僕の足元に落下して勢いよく煙を吐き出した。「催涙弾!!」。まるでダムが決壊したように涙が噴き出してくる。ゴホッ、ゴホッ、咳が止まらない――。パレスチナに築かれた分離壁に反対するデモを“見学”していた時の出来事である。

▼きっかけは、昨夏に観た「ビリン・闘いの村」という映画だった。パレスチナの若者がイスラエル軍に対して、非暴力のデモを始めた事実を撮ったドキュメンタリーだ。この映画の監督と話す機会があり、「実際に現場をみなければ何も分からない」という言葉に背中を押されるように、現地を訪れた。昨年11月21日、ヨルダン、イスラエルを旅していた途中のことだった。

▼その少し前からヨルダン経由でイスラエルのエルサレムに到着し、「ファイサル」という宿を基点に歩き回っていた。11月21日にビリン村へ向かうのは日本人9人だった。どういういうわけか僕はそのグループの“案内役”に祭り上げられ、「口を覆う厚手の布、催涙ガスを吸ってしまったときに口をすすぐための水、応急処置に使う玉ねぎを忘れないように」などと、メンバーに注意を与えたりしていた。

▼ビリン村に着いたのは正午頃。デモは午後1時からだ。村から続く道の先にフェンスがあって、イスラエル兵の姿が見える。しばらく経つと、お祈りを終えたパレスチナ人たちがぞろぞろとモスクから出てきた。そのうち、フェンスのある道を進む人たちが叫び声をあげ始めた。デモらしくなってきたぞ。

▼デモ隊が、僕たちの横を通る。その時、リーダー格のパレスチナ人が「一緒にいこう!」と誘った。日本人組はさすがに尻込みしたが、デモ隊の一人が僕をつかまえて肩を組んできた。「みんなどうした? この日本人は参加するんだぞ」みたいなことを言う。で、ずるずると引き込まれて、いつの間にか最前列を歩く羽目になった。実はその時、忘れてはならないものを手にしていなかったことに気づいていなかったのだ…。   〔つづく〕(BCNシステム企画グループ 吉野理)

▽好奇心の赴くままに、非日常を求めて旅をする。現地には“五感”の刺激剤がある。(BCN社長 奥田喜久男)
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