旅の蜃気楼

中国とアメリカの狭間にある国で

2010/06/17 15:38

週刊BCN 2010年06月14日vol.1337掲載

【神田発】エスカレータを最初に見たのは子供の頃だ。岐阜市内にあった丸物百貨店だったと記憶する。階段が動くから、わくわくして何度も乗ったのを思い出す。その時、自分が乗った側の記憶がない。エスカレータに乗る人が並ぶ側はいつの頃決まったのだろう。それも関東は左、関西は右だ。誰が決めたのだろう。不思議だ。

▼中国にもどんどんエスカレータができている。上海は、関西ルールだ。右に並んで、左は急ぎの人が利用する。上海では万博の開催で街の人に指導があったという。効果のほどはどうだろうか。あまり期待はしていなかった。中国だもの、と思っていた。ところが地下鉄のエスカレータでは、予想に反して整然としていた。その効果が現れていた。そういえば、ほかにも予想に反して整然としていたものがある。道路で車の警笛が減ったことだ。

▼さて、話の舞台はニューヨークに移る。4月に台湾の友人が、20年ぶりにNYを訪れた。彼は同世代だ。第二次世界大戦の終焉とともに、兄弟3人は親の指示に従って別の道を歩んだ。長男はアメリカで脳外科医。次男の彼は日本で技術のコンサルタント会社を起業し、50代になって台湾で会社をIPOした。今は会社を売却して、世界を旅行している。三男はフランスで野菜の栽培を始めて、シャトー住まいという。つい先頃のNYの旅は長男の誕生日を祝って、一族が集まったという。切なくも壮大な中国人の世界観を垣間見る話だ。中国の成長力はアジアを吸い込んでいく。

▼「アメリカ、なんか変だよ」「何が変なの?」「ブルーノートに行ったんだけど、人が割り込んできたんだよ」「たまたまじゃないの? そんな時もあるよ」。「メトロポリタン美術館へ行ったら、館内で、写真を撮ってる人がいた」「たまたまじゃないの?」「それにアメリカにしかないものがないよね。昔はあったけど」。こんな会話の後で、神田にある居酒屋で、純米酒を呑んだ。「最近、日本酒がおいしいのよ」。時代は進化している。日本はアメリカと中国の真ん中にある便利な国だ。(BCN社長・奥田喜久男)

“便利な国”日本の居酒屋で酒を楽しむ
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