BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>もうすぐ絶滅するという紙の書物について

2011/02/24 15:27

週刊BCN 2011年02月21日vol.1371掲載

 書籍を電子デバイスで読む環境が整いつつあるいま、その利便性を肯定しながら、「紙」の意味を縦横無尽に語り合う対話集。

 ウンベルト・エーコは、記号論の碩学であり、作家であり哲学者であり批評家であり、蔵書家である。『バウドリーノ』(岩波書店)で久しぶりに名前を聞いたと思ったら、こっそり(?)こんなモノまで翻訳されていた。もう一人のジャン=クロード・カリエールもまた、『ブリキの太鼓』などの脚本を手がけた作家・脚本家。タイトル通り、電子書籍時代の到来を目前にして、「紙の書物」へのオマージュに終始するかと思いきや、さにあらず。本質的な「書籍」の存在意義を縦軸に、文学・芸術・歴史・哲学を横軸にした壮大な文化論の対話になっている。紙の書籍への“愛”を前提にしながら、二人の博覧強記ぶりはとどまるところを知らない。知の入口の書だ。

 もう一冊、補足的に電子書籍の意味を冷静に考える参考書として、津野海太郎『電子本をバカにするなかれ』(国書刊行会)を挙げておく。著者は、本と出版の電子化を書物史からみた第三の革命――第一が「口述から書記へ」、第二が「印刷」――として捉え、その浸透を四つの段階に分けて、最終的に共存する姿を描いている。

 二冊とも、書き手(語り手)は紙の書籍に深く関わってきた人物。「書籍」の意味を知る人々が、デバイスでもなくコンテンツでもなく、本質から解き明かす「書籍の電子化」は、時代の流れをみる目をもたせてくれる。(叢虎)


『もうすぐ絶滅するという紙の書物について』
ウンベルト・エーコ/ジャン=クロード・カリエール 著 工藤妙子 訳
阪急コミュニケーションズ刊(2800円+税)
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