BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『「お手本の国」のウソ』

2012/02/02 15:27

週刊BCN 2012年01月30日vol.1417掲載

 実像とイメージが異なるというのは、ままあることだ。ものごとの特定の側面ばかりが強調されることで情報が正確に伝わらず、さらにそれが放置されることで、いつのまにかイメージとして定着してしまう。本書は、日本の政策制度や世論が、これまで「お手本」としてきた国、つまり「本家」の実像を紹介する一冊。書き手は、「お手本」の国に住む日本人だ。ただし、書かれているのはあくまでも実像であって、タイトルにあるように「ウソ」を暴くわけではないので、そこは注意して手に取られたい。

 まな板の上に乗るのは、少子化問題の解決(フランス)、教育大国(フィンランド)、二大政党制(イギリス)、国民の裁判参加(アメリカ)、戦争責任と戦後処理(ドイツ)、自然保護(ニュージーランド)、観光立国(ギリシャ)。確かに、それぞれ一度は耳にしたことのあるその分野での先進国だ。書き手も、テーマも、掘り下げ方もそれぞれで、いささかまとまりに欠けるきらいはあるが、情報の歪みとギャップを正す試みとしてはおもしろい。

 最も読みでのある一編は、日本の裁判員制度の「お手本」となったアメリカの陪審制度。筆者は、カリフォルニア州の高等裁判所に書記官として勤務する現役法務官だ。アメリカの裁判制度の概略を説明し、生々しい陪審裁判の模様を伝えている。アメリカでは、民事であれ刑事であれ、原告か被告のどちらかが望めば陪審裁判になるのだが、筆者は主に陪審員の資質に目を向けながら、「私なら絶対に陪審裁判を選択しない」と結論づけている。その論旨は明快だ。(叢虎)


『「お手本の国」のウソ』
田口 理穂 ほか 著 新潮社 刊(740円+税)
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