BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『武藤博士の発明の極意』

2013/04/25 15:27

週刊BCN 2013年04月22日vol.1478掲載

 慶應義塾大学環境情報学部の名物教授が上梓した本。氏は米国の複数の大学で教授として教鞭を取った後、帰国して、数々の発明をものにしてきた。世界初の携帯電話のカメラ、紙幣の鑑別機、床発電、温泉や廃熱を利用した温度差発電などなど。かつて武藤教授は『週刊BCN』のインタビューに答えて、「日本というのは、実はエネルギー大国だ。マグマの熱は1000℃もあって、九州の霧島連山にある新燃岳のマグマだまりだけで、日本の原子炉の何基分もの発電ができる」と断言した。実は、マグマ発電に適した場所は大半が国立公園内にあって、設備の建設に厳しい制約を受けている。それが東日本大震災による電力供給不足をきっかけとして、実現の方向へ大きく動き出した。構想が現実のものに近づいてきているのだ。

 マグマ発電をはじめとして、発電関連のアイデアは秀逸だ。例えば、床発電。JR東京駅での実証実験では、乗降客が通行する自動改札機の周辺に総面積25m2の床発電装置を取り付けて、1日あたり940kWsを稼ぎ出している。人の頭やほっぺたに発電機を接触させて、その温度差で発電する仕組みもおもしろい。そのほか、温泉と海水の温度差を利用する温泉廃熱発電、バイクのマフラー廃熱発電、キャンプのときに便利なたきび発電など、大学教授が取り組むテーマなのかと思わせるほど身近なアイデアが真面目に紹介されている。それも単なる思いつきではなく、きちんとした理論数値に裏づけられているところがいかにも教授の本らしい。(仁多)


『武藤博士の発明の極意』
いかにしてアイデアを形にするか
武藤佳恭 著
近代科学社 刊(1800円+税)
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