NTTデータグループの社長に財務畑のキャリアを持つ中山和彦氏が就いた。国内外のデータセンター(DC)に年間5000億円規模の設備投資を行っている現状を踏まえ、持ち株会社として資金調達や自社のバランスシートの管理といった役割が重くなるとみる。また、AIの普及が急ピッチで進む中、GPUサーバーを格納する高規格DCの需要が増しており、同社グループはDC基盤の構築からユーザー企業の業務システムにAIを実装するまでワンストップで手がけることでAIビジネスに弾みをつける考えだ。中山社長は「世界で最も信頼されるAIインテグレーター」になると意気込む。
(取材・文/安藤章司 写真/馬場磨貴)
株主のエージェント
――社長としての抱負を伺います。
経営者として「株主にとっての優れたエージェント」という側面を意識しています。企業活動はさまざまな経営指標を基に経営判断を下しますが、どのような商売にも必ずリスクが伴い、経営判断をする上で必要となる情報が常に100%得られるとも限りません。そこで私は「株主である投資家にちゃんと説明できるかどうか」を判断の座標軸の一つにしています。合理的に説明がつかないことはあまりしてはいけません。
当社は非上場企業ですが、親会社であるNTT本体の経営陣の向こうに株主がいるわけで、経営方針の話を(NTT本体に)持ちかける際は、NTTの株主に説明しやすいよう話を持っていくと、お互いの議論もスムーズに進みやすい。そういう意味で株主のエージェントの側面を意識することは、独り善がりな経営判断によるリスクを低減し、投資家との良好な関係を維持する上で重要なことだと捉えています。
もちろん、事業会社で働く皆さんが気持ちよく仕事に没頭できる環境をつくり、「持ち株会社に協力したい」と思ってもらえるようにしなければなりませんので、現場を盛り立てていくことにも力を注ぎます。
また、DC需要は世界規模で高まっており、市場で世界第3位のシェアを持つ当社は、2025年度に約4000億円の設備投資を行いました。26年度は約5200億円を予定しています。もし可能であれば合弁事業や一部出資といった第三者の資本も上乗せして設備増強を行うことで一層のシェア拡大を目指します。DCの規模を示す電力容量は、足元の1.6ギガワットから30年には3ギガワットへと倍増させ、引き続きクラウドやAI推論向けDCの世界トップ集団をけん引する考えです。
旧NTTコミュニケーションズの海外DC事業を再編した際、私はNTTの財務部門の担当として関わっていました。その後、NTTデータグループ立ち上げのタイミングでコーポレート担当役員に着任し、海外DCの投資に携わることになったのも何かの縁だったのかもしれません。
NTTグループの成長エンジン
――中山社長は、もともとITの道に進もうと思っていたのですか。
NTTが民営化し、これからは「多国籍企業向けの国際的な通信システムを構築する仕事が増える」と大学の先輩から聞いてNTTに入社しました。入社後に支店勤務をしていたところ、「国際金融の担当をしてみないか」と声がかかり、「グローバルな金融機関向け通信システムの仕事か?」と思って飛びついたところ、実際は外国債券を扱う職場で、そこから財務関連のキャリアを歩むことになりました。
財務といっても、伝統的な会計や税務はあまり経験がなく、国内外の投資家にNTTの財務状況や経営戦略などの情報を開示し、双方向のコミュニケーションを図るIR活動や、そうした活動を通じて実際に投資をしてもらう仕事の割合が多かったです。仕事のスタイルは限りなく「営業職」に近く、世界中を飛び回って投資家との意思疎通を図るという意味では、学生のときに憧れた「国際的な仕事」ではありました。当初思い描いていた通信システムの事業とは距離がありましたけれど(笑)。
――NTTデータグループは海外売上高比率がすでに6割を占めていますので、海外投資家とやりとりをしてきた経験も生かせそうですね。
NTTデータの歴代社長はIT一筋でやってこられた方がほとんどで、前社長の佐々木さん(佐々木裕氏)もそうでした。副社長として佐々木さんと一緒に2年間仕事をしてきて感じたのは、M&Aを除いて、伝統的なSIビジネスは巨大な初期投資が求められる事業ではなく、資産状況やバランスシート(貸借対照表)をあまり気にする必要がありませんでしたが、先述のDC投資など、巨額の先行投資がかさむビジネスモデルの比重が高まると話は違ってくるということです。海外投資家からも資金を調達していかなければならない状況で、持ち株会社としてバランスシートを管理する重要性が増しています。
――佐々木前社長はNTT持ち株会社の代表取締役副社長に就きました。
NTTデータグループの事業を熟知している佐々木さんがNTTにいることで、仕事がやりやすくなります。幸いなことにNTTグループに占めるNTTデータグループの売上高比率は着実に高まっており、海外比率が高い当社は間違いなくNTTグループ全体において、グローバル規模での重要な成長エンジンです。NTTドコモグループなど、ほかのNTTグループの事業会社との連携を進めていく上でも、NTTが事業会社同士の重要な調整役を担うことになるので、佐々木さんとは今後も二人三脚でグループ経営を進めます。
プラットフォーム型ビジネスを加速
――AIでコードが自動生成されるようになり、SEやプログラマーの仕事が減ることが懸念されています。
業務をシステム化するときは、ユーザー企業がどのようなビジネスを手がけていて、何をしたいのかを聞き込んで要件に落とし込み、設計する手順が不可欠です。いくらAI技術が発展しても、この部分を全部AIに任せるわけにはいきません。ユーザー企業は当社を信頼してシステムやデータを預けてくれるわけで、われわれはその信頼に応える責任があります。ユーザー企業のビジネスに直結する重要情報を運用する場合は、データ保護を重視したソブリンクラウドを構築するなど、AIだけでできることは限定的であり、過度に心配することはないと思っています。
むしろ、これまで多くの人的リソースを投入していたプログラム開発をAIによって自動化することで、プロジェクトの期間を短縮しつつ、より多くの受注をこなせるようになる可能性があります。AI活用を筆頭にソフトウェアによって社会や経済を動かす割合が高まれば、(ソフトウェアの)潜在的な需要が顕在化してビジネスが一段と活性化すると私はみています。SIer視点で見れば、AIの登場をきっかけに、開発人員の動員規模で稼ぐ従来型の人月モデルから脱却するチャンスでもあります。
――どのようなビジネスモデルに変わっていくとお考えですか。
プラットフォーム型のビジネスの割合が増えるとみています。25年に米国で設立したAI専業子会社のNTT DATA AIVistaを中心に、AI活用のプラットフォームを開発しており、その上に各国・地域のユーザー企業が属する業界固有の業務フローや規制などに対応したAIを運用する方向で考えています。当社グループは地銀の共同利用システムや決済プラットフォームの「CAFIS」、貿易手続きオンラインシステムの「NACCS」など、プラットフォーム型のビジネスを強みとしてきましたので、AIビジネスにおいても業種・業務に適合したビジネスプラットフォームの開発に力を入れていきます。
NTTデータの鈴木さん(鈴木正範社長)が「提言・実装・成果」とよく語っていますが、SIerに求められるのはまさにこれだと思います。AIビジネスも同様で、ユーザー企業の業務改革を提言し、AIを実装し、成果に結びつけることで、世界で最も信頼されるAIインテグレーターだと認識してもらえるよう努めます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
AIによる自動化が進み、SEやプログラマーを大量に動員して大規模システムを開発する時代ではなくなっても、「いかにして優れたタレントを多く集められるかがSIerの競争力を大きく左右する」と、人材重視の姿勢を明確にする。
見方を変えれば、AI時代だからこそ、日々進化するAI技術を先回りし、ビジネスに落とし込む才覚を持つ人材や、高性能GPUサーバーが稼働可能な大規模DCを設計・構築できるITインフラ技術者がより多く求められる。
NTTデータグループは国内外のあらゆる事業体で、目指すべき組織文化として「人が成長できる場所であり続ける」ことを掲げている。
「キャリアを積んで自分が成長できる場所だと認識されれば、自ずと良いタレントが集まってくる」。逆にそういう場所ではないとなれば人材は去ってしまう。「SIerは人が資本」と言われて久しい。事業環境がどれだけ変わっても「まず人が成長し、その結果として会社も成長する」と説く。
プロフィール
中山和彦
(なかやま かずひこ)
1964年、東京都生まれ。89年、東京大学経済学部卒業。同年、日本電信電話(現NTT)に入社し、2007年に東日本電信電話(現NTT東日本)財務部担当部長。その後、NTT財務部門IR室長、NTTコミュニケーションズ(現NTTドコモビジネス)財務部長、同社取締役財務部長、NTT執行役員財務部門長などを経て、23年、NTTデータ(現NTTデータグループ)取締役副社長執行役員コーポレート総括担当。24年に同社代表取締役副社長執行役員コーポレート総括担当。26年6月12日より現職。
会社紹介
【NTTデータグループ】2027年3月期の連結売上高は前期比3.7%増の5兆1900億円、営業利益は3.7%減の4700億円、うち海外売上高は3.7%増の3兆1200億円の見込み。国内事業会社のNTTデータと、海外事業会社のNTT DATA, Inc.を傘下に持つ。従業員数は国内5万人、海外15万人の計約20万人。