おいしいものは飽きられる

 「売る力」とは、お客様から見て「買ってよかった」と思ってもらえる力である。だから、売り手は常にお客様の求めるものをかなえる「顧客代理人」でなければならない──著者は、本書の序文でこう断言している。

 顧客満足を追求しているつもりなのに、お客にとっては受け入れがたいとか、迷惑だというケースが往々にしてある。では、どうすれば「売る力」を磨くことができるのか。

 セブン&アイ・ホールディングスが発行している広報誌『四季報』には、毎回、鈴木敏文氏と対談する人物が登場する。本書は、それらの登場者が発する言葉を補強材料にしながら、「売る力」に迫る構成になっている。

 例えば、AKB48の総合プロデューサー、秋元康氏は、「どんな高級料理も三日続けて食べれば、お茶漬けが食べたくなる」と指摘する。これに関していえば、セブン-イレブンの大ヒット商品『金の食パン』の話が興味深い。普通なら販売により力を入れるようハッパをかけるところだが、著者は『金の食パン』の発売直後から「すぐに次のリニューアル版の商品開発を始めるように」と指示を出したという。おいしいがゆえに飽きられる。飽きられてから次の商品を開発するのでは遅いというわけだ。

 秋元氏をはじめ、アートディレクターの佐藤可士和氏、幻冬舎社長の見城徹氏、前旭山動物園園長の小菅正夫氏、作家の百田尚樹氏らが発する言葉には、「売る力」を磨く養分がたっぷり含まれている。(仁多)


『売る力 心をつかむ仕事術』
鈴木敏文 著
文藝春秋 刊(770円+税)