課題解決で未来は作れない

 「必要は発明の母」と言われる。明確な課題があってこそ、それを解決すべく新たな道具や方策を生み出そうとする意欲が沸くというものだ。しかし本書の著者によれば、イノベーションと呼ばれるような破壊的な新発明の場合、因果はむしろ逆だという。

 スマートフォンに表示された画像を、二本指で拡大/縮小する動作は今や誰もが経験済みだろう。著者はこの操作方法を2001年に発明し論文発表した。しかし当時、数年後にiPhoneのようなデバイスが登場することを予期して開発したわけではなく、マウスで拡大/縮小するよりも自然な操作とはどんなものかを考えた結果であり、何にどう使うかは著者自身もイメージできていなかったという。解決すべき課題があっての発明ではなかったのだ。

 課題解決型の発明も必要だが、それだけではアイデアの独創性やスケールを狭めてしまう。人はある分野で経験を積めば積むほど、新奇なアイデアには否定的になり、堅実でリアリティのある方策を選ぶようになるものだが、イノベーションにはむしろ素人感覚の「妄想」が必要だ。本書はいかに自由に妄想し、それを実現していくかの指南書である。

 思いついたアイデアは言語化することでその意義が検証できるが、その際の注意が一つ著者からあった。それは、「高機能な」「新しい」といった表現は「正しいけれど曖昧」で、検証不可能ということ。企画書を作るときには注意したい。(螺)
 

『妄想する頭 思考する手』
暦本純一 著
祥伝社 刊(1760円)