ソリッド・ギターは破壊的イノベーションだった

 第二次世界大戦後のアメリカで、ジャズやカントリー音楽が、より大きな会場で多くの聴衆を集めて演奏されるようになるにつれ、ギターという楽器の課題が浮き彫りになった。音量が小さいのだ。いわゆる「エレクトリック・ギター」は既に登場していたが、そうしたシチュエーションで十分な音量を出すことはできなかった。弦の振動を中空状のボディで豊かに響かせることこそギターのアイデンティティであるという認識が支配的だったため、基本的な構造は従来のアコースティック・ギターから逸脱したものにはならず、ハウリングが起こりやすかったのだ。
 

 空洞のないソリッドなボディのエレクトリック・ギター(ソリッド・ギター)は、その解決策として固定観念を乗り越えて生まれた。本書は、ソリッド・ギターの誕生と普及にまつわる何人かのキーパーソンの邂逅と競争、そして彼らが深く関わった代表的ギターメーカーであるフェンダーとギブソンの歩みを、1969年までの音楽シーンの変遷とともに丹念に追ったノンフィクションだ。大きな音を出すためのソリューションであったソリッド・ギターが、やがて新しい音楽の創造と市場環境の急激な変化を導く様には、現代の破壊的イノベーションにも共通するプロセスが見て取れる。

 ちなみにフェンダーは現在、サブスクリプションモデルのオンライン学習サービスで顧客とのエンゲージメントを強化する試みが成功し、業績を伸ばしている。DXを成し遂げた先進企業として語られることも多い。(霹)


『フェンダーVSギブソン 音楽の未来を変えた挑戦者たち
THE BIRTH OF LOUD 大きな音はカネになる!』
イアン・S・ポート 著 中川泉 訳
DU BOOKS 刊(2500円+税)