BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『江戸の旅行の裏事情 大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ』

2021/12/24 09:00

週刊BCN 2021年12月20日vol.1904掲載

観光業の萌芽は江戸時代に

 今や日本の主要産業の一つとなった観光業。その萌芽は江戸時代にあったという。本書は江戸時代に旅がビジネスとして発展していく過程を紐解き、観光消費を支えたさまざまな人々の姿を描いている。
 

 寺社仏閣などへの訪問、温泉、食、買い物、性風俗など、観光を構成する要素は実は現代と大きく変わらないことや、消費の主役が女性である点など、現代に通じる部分がいくつもあり、閉鎖的な社会ともみなされる江戸時代の意外な側面が浮かび上がってくる。本書でも指摘されている通り、観光がビジネスとして成り立つには、社会の安定が欠かせない。泰平の世となった江戸時代に旅行ブームが巻き起こったのは自然な流れなのだろう。

 人はなぜ旅をするのだろうか。そもそも人類の歴史は常に旅と共にあった。より住みやすく、食料が豊富な場所を求め移動を繰り返す。旅は本能的な営みとして遺伝子に刻まれ、300年以上前を生きた江戸時代の人々にも、現代に暮らす私たちにも受け継がれているのかもしれない。新型コロナ禍で気軽に旅をすることが難しくなっている今、自由に旅ができる日を待ちながら「旅に出る理由」を考えてみるのも悪くない。(無)


『江戸の旅行の裏事情 大名・将軍・庶民 それぞれのお楽しみ』
安藤優一郎 著
朝日新聞出版 刊 891円(税込)
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