BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『民族と文明で読み解く大アジア史』

2022/07/22 09:00

週刊BCN 2022年07月18日vol.1931掲載

アジアはどこから来てどこへ行く

 2010年、中国のGDPは日本を抜いて世界第2位となった。現在1位である米国のGDPを抜くのも時間の問題と見られており、早ければあと10年もかからないという。そして、その頃にはインドが世界第3位の座に着くと予測されている。「21世紀はアジアの世紀」などとよく言われたものだが、そんな時代が実体を伴って目の前に現れようとしている。
 

 それだけに、この地域における地政学的な緊張は、世界全体にとっての重大な関心事になる。ロシアのウクライナへの軍事侵攻によって、いよいよ中国が武力をもって台湾統一に乗り出すのではないかと注目されている。

 アジアはこの先どこへ行くのか。それを考えるヒントになるのが、極東から西アジアに至るまでの各地域の民族・文明の歴史を、最新の知見を基に伝える本書である。アジアの歴史は中国史を中心に語られることが多いが、本書ではそのような教科書的な歴史の捉え方に異論を唱えながら、この地域の諸民族がどのように形成されていったか、そしてどのような対立の物語があったかを明らかにしていく。アジアの文明史は教養としても興味深いが、有事の火種を抱えるアジアの一住人としては、読みながら自然と肩に力が入ってしまう。(螺)


『民族と文明で読み解く大アジア史』
宇山卓栄 著
講談社 刊 1320円(税込み)
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