BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』

2022/07/29 09:00

週刊BCN 2022年07月25日vol.1932掲載

映画の早送り視聴はあり?なし?

 今春、SNSやテレビでZ世代の若者を中心に広がっている動画作品の倍速視聴に関する議論が盛り上がった。これが面白いくらいに賛否が分かれ、いまなお熱のこもった主張が繰り広げられている。その呼び水となったのが本書だ。

 本書で語られているのは、倍速視聴問題だけではない。現代のコンテンツ鑑賞(あるいは消費)が抱えている「台詞で説明させすぎ問題」や「ネタバレ消費問題」など、業界関係者があえて論じることを避けてきたパンドラの箱を次々に開けていく。そこからみえてきたのは、単なる視聴スタイルの好みではなく、今を生きる若者たちの切実な事情だ。

 ちなみに倍速視聴について記者は「転向組」。かつては「冒涜だ!」と糾弾していたが、試してみるとタイパ(タイム・パフォーマンス)がよすぎて抜け出せなくなった。正直、罪悪感はある。「こんな小さなコラムでも流し読みでなく、じっくり読んでもらいたい」と記者が密かに思っている以上に、映像作品のクリエイターは心血を注いで生み出した作品を然るべき時間をかけて鑑賞してほしいと願っているはずだ。本書を読みながら、作り手への後ろめたさで胸がチクりと痛くなった。


『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』
稲田豊史 著
光文社 刊 990円(税込)
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