BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『ピンヒールで車椅子を押す』

2023/08/25 09:00

週刊BCN 2023年08月21日vol.1981掲載

自分をあきらめない親子の物語

 著者は、重度の脳性麻痺をかかえて生まれたわが子を、誰よりも自分を信用できる子に育てようと、息子とともにさまざまな壁に挑んだ。23年間にわたる親子と家族の成長記録を、小説のように軽やなタッチでつづっている。

 最も心に残ったのは、障害故に歩けない息子が、10歳下の妹が9カ月でつかまり立ちをしたのをみて、「なぜ自分だけ歩けないのか」と問いかけたことに対する、母の言葉だ。自分が自分であることは変えられない。その自分が、どうやりたいことを叶えていくのか。人と違うなんて当たり前だと、息子に真正面から語り掛ける母の思いに胸を打たれた。

 自分にはどんな価値があるのだろうか。何をやりたくて、何ができるのか。誰だって、生きる中で悩み、立ち止まることがある。息子は息子自身の人生を、母は母の人生を後悔なく生きるために、チャレンジし続ける姿は、前向きに生きる気持ちを奮い立たせてくれるエールのように感じた。他の誰かになんてならなくていい。どんな過去も、どんな現在も、私たちは自分の手で、希望へと変えることができるのだから。ピンヒールで軽快に車椅子を押す著者からのメッセージを受け取り、明日から動き出す力にしよう。(緑)
 


『ピンヒールで車椅子を押す』
畠山織恵 著
すばる舎 刊 1540円(税込)
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