ある少年の才能開花の物語
IT業界に最大の功績を残す経営者の一人が、米Microsoft(マイクロソフト)創業者のビル・ゲイツ氏である。同氏の著書としては、1995年に刊行された未来予測書『ビル・ゲイツ 未来を語る』がよく知られる。あれから30年。70歳になったゲイツ氏が、今度は自らの足跡を次の世代に手渡すように語り始めたのが本書だ。全3巻の予定で、第1巻は子供時代からマイクロソフト創業初期、BASICインタープリター納入の契約にこぎ着けるところまでを描く。
読み始めの印象は、正直に言えばやや散漫だ。子供時代のさまざまなエピソードが紙上にバラバラと置かれ、あまり読み進めやすい物語ではない。ところが、日本でいえば中学・高校期にあたる学校「レイクサイド」でコンピューターと出会うあたりから、描写が一気に研ぎ澄まされる。ソフトウエアのテクノロジーとビジネスがどう交差していくのかが、細部を伴って立ち上がってくる。
独特の興味の向きや思考の癖ゆえに、ある種の生きづらさを抱えた少年が、テクノロジーに触れることで自分の居場所を見つけていく成長譚としても読みごたえがある。次巻以降では、この才能がどのように巨大企業の経営に生かされていくのか確かめたい。(螺)
『ビル・ゲイツ自伝1 SOURCE CODE 起動』
ビル・ゲイツ 著、山田 文 訳
早川書房 刊 2970円(税込)