店頭流通

ヨドバシカメラ、大阪進出から1年 好立地と工夫で集客力に弾み

2002/11/25 18:45

週刊BCN 2002年11月25日vol.967掲載

 「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」が、昨年11月22日にオープンして早くも1年。大阪駅前という立地条件の良さで、さまざまな顧客層を獲得し、確固たる地位を築きつつある。ヨドバシカメラという“黒船”の出現は、大阪のパソコン市場に大きな影響を与えた。特に、これまで市場をリードしてきた日本橋電気街では、ヨドバシカメラの出店で顧客獲得競争が一段とエスカレートしたことは否めない。今後、客足を引き戻すために、専門性に特化した品揃えやサービスなど、巨大量販店との差別化に迫られている。(佐相彰彦●取材/文)

日本橋電気街は正念場迎える

■立地条件の良さが強み 週末には12万人の集客も

 「ヨドバシカメラマルチメディア梅田」がオープンした昨年11月22日。大阪駅の目の前に巨大店舗が進出することで大きな話題を呼び、オープン初日は2000人以上の来店者が行列を作るほどだった。

 ヨドバシカメラでは、同店舗が関西エリア初の出店だったものの、幅広い顧客層から支持され、オープンから丸1年が経過した現在でも、依然として高い集客力を維持。大阪エリアのパソコン市場で確固たる地位を築きつつある。

 マルチメディア梅田の竹下雅浩店長は、「立地条件の良さを改めて実感する。月平均の成長率は30-40%で推移している」と話す。 地下2階・地上13階建てのビルに店舗を構え、地下1階から地上4階までのフロアを売り場に使用。地下1階が「パソコンとデジタルカメラ」、地上1階が「モバイルと通信」、2階が「カメラと時計」、3階が「音と映像」、4階が「ホーム家電」という構成になっている。

 5-7階部分には、ファッションブランド品やアクセサリー品、バラエティ用品のショップが並ぶ。8階は15店舗以上の「レストランゾーン」、9-13階部分は760台を収容する大型駐車場となっている。ヨドバシカメラが旧国鉄貨物所有物を1010億円で落札し、一大ショッピングエリアを形成した格好だ。

 同店舗の来店者数は、平日で6万人以上、週末で12万人以上だという。マルチメディア梅田での購入者数は、平日で約2万人、週末で約6万人とみられる。顧客層は、「平日がビジネスマン、週末は家族連れが多い」と、さまざまな層を獲得している。

 「ターミナルステーション前」という好立地に加え、「ショッピングエリアの形成」が購入者の獲得に功を奏したのも事実。だが、顧客を取り込むための販売戦略も見逃せない。

 販売で注力している点は、豊富な品揃えと、さまざまな顧客層を取り込むための接客態度だ。商品に関しては、「可能な限り商品数を揃え、売れる商品は在庫を切らさない」ことに注力する。特にパソコン本体は、競合店舗に比べ圧倒的な品揃えを誇る。

 これは、初心者層を獲得するため。「まずパソコン本体を購入してもらい、周辺機器や家電の購入時にも当店舗を利用してもらう」のが狙いだ。 接客についても、「パソコンのスペックや機能を説明するのではなく、パソコンで何ができるかなど、初心者にも分かり易い説明を徹底した」と強調する。

 こうした取り組みで、初心者層の比率は40%を占めるようになり、パソコン本体の売り上げ増や販売台数増加による粗利益率の向上にもつながっている。パソコンおよび関連製品は、売り上げ比率が全体の40%。パソコン本体の粗利益率は13-15%で推移する。

 フロア内では、山積みされた商品がさまざまな場所にあるのが目立つ。これは、「顧客に在庫が確実にあるという安心感をもたせるため。販売促進の1つ」としている。

 消費者が目当ての商品、もしくは購入しようか決めかねている商品を見るために同店舗に来店した場合、その商品の在庫があるかを一目で確認できれば、消費者の購入決断を促すことにもつながるそうだ。 

■販売競争に拍車かかる 老舗は専門性で生き残りへ 

 マルチメディア梅田の出現で、大阪エリアの各販売店では低価格競争やポイント還元合戦に一層拍車がかかった。ポイント還元に関しては、パソコン本体で20%に達した。

 こうした激しい競争が繰り広げられている一方で、日本の三大電気街の1つである日本橋電気街では、集客数の減少という大きなダメージを受けた。日本橋の顧客減少は、ヤマダ電機やコジマの郊外型大型店舗や難波駅前のビックカメラ、ビックピーカンの出店でも起こっていたが、ヨドバシカメラの出現でさらに追い討ちをかけることになった。

 「全盛期と比べ、集客数が20-30%減少している」というショップが多い。「パソコン本体の販売で対抗するのは難しい」と嘆く関係者もいる。今年に入り、中小規模のショップが相次ぎ閉店している状況も散見される。

 ヨドバシカメラマルチメディア梅田が大阪エリアのパソコン市場に大きな影響を与えたのは事実だ。 だが、厳しい状況に追い込まれるなか、専門性を打ち出した販売戦略で堅調にビジネスを拡大している店舗もある。

 ヨドバシカメラと同じ大阪駅前に店舗を構える「ソフマップ・ギガストア梅田店」では、ヨドバシカメラの出店で来店者数減少という影響を受けたものの、「固定客は確実に囲い込んでいる」(佐々木寛興店長)と自信をみせる。今年10月末には店舗をリニューアルし、ソフマップが得意とする中古販売を強化。「専門性を出すことで差別化を図る」と強調する。

 日本橋電気街では、パーツ専門店を運営するワンズがパソコンマニアの間で根強い人気を集めている。同社の鈴木礼社長は、「ヨドバシカメラでもパーツの販売は行っているが、専門的な知識や品揃えでは負けない」と話す。最近では、ネットショップの売れ行きが好調で、「毎月の売上高は、前年同月の10%増前後で推移している」と手応えを感じている。

 日本橋の今後については、「パーツを販売する小規模な店舗が集まれば、日本橋電気街の強みになるのではないか」(鈴木社長)との見方も示す。 このほか、「ネットワーク関連機器の販売をはじめ、その機器の設置工事などで収益を上げていきたい」とするショップ関係者の声も現地で聞いた。

 専門性と集積性を武器に、大阪エリアのパソコン販売をリードし続けてきた日本橋が正念場を迎えている。集客力を高めるために、ヨドバシカメラや郊外型大型店舗とは異なる土俵で勝負を挑もうとする姿にこそ、“大阪商人”の意地があるのかもしれない。
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