大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>18.アップルがリビングへの進出を宣言した日

2006/10/02 18:44

週刊BCN 2006年10月02日vol.1156掲載

 「One last thing…」

 米アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズCEOは、基調講演で使用する、いつもの「One more thing」の言葉を、少しだけ変えて、新たな製品の話を切り出した。

■iPodよりも衝撃大きい新製品

 「アップルが、まだ売ることができないものを発表するのは異例」と前置きして、ジョブズCEOが紹介したのが、iTVだ。

 この日の主役は、iPodの新製品3機種と、コンテンツ管理ソフトiTunes7の発表だった。

 それに、iTunes Storeでの映画配信開始。ここまでは、アップルの事情通が運営するサイトの情報などで、ある程度は事前に予想できた。

 だが、iTVは、まさに想定外の発表だった。

 そして、iPodの新製品などよりも、こちらのほうが業界に激震となって伝わった。

 iTVとは、大型のフラットスクリーンテレビとiPodなどをつないで、大きなテレビ画面でも、iTunes Storeでダウンロード購入した映画などを楽しむことができるようになる製品。マックあるいはPCと薄型テレビ、iPodと薄型テレビがiTVを通じて無線ネットワークで接続され、家庭内でコンテンツが共有できるようになるのだ。

 発売時期は2007年第1四半期。あと、半年待たずに市場投入されることになる。

■リビングに設置するiTV

 ジョブズCEOは、「アップルの将来の方向性を明確にするためにも、この話をする」として、「社内的な呼称」とされるiTVの基本機能を紹介していった。そのなかで衝撃的だったのは、「書斎のなかの製品から、iTVによって、アップルはリビングルームへと進んでいく」という方針を明確に示したことだ。

 つまり、この製品発表によって、アップルはAV機器メーカーへの脱皮を明確に示したものともいえる。

 iPodの投入によって、デジタル携帯オーディオ機器メーカーへと進化し、「A(オーディオ)」の分野において確固たる地位を築いたのに続いて、今度は、iTVによって、「V(ビジュアル)」の分野へ足がかりをつかもうとしているわけだ。

 米国では、iTunes storeにおいて、すでにテレビ番組や、映画の配信を開始し、映像コンテンツの取り扱いにも積極的な姿勢をみせている。

 今後のアップルの施策は、PCメーカーやオーディオ機器メーカーとしての戦略から、さらにビジュアルを交えた戦略へと幅が広がるのは明らかだろう。

 iTVに続き、どんな手を打つのか、AVメーカーとして、どこまでその枠を広げるのかが、これからの焦点となる。

 実は、この日の発表会で、ジョブズCEOは、いつもの黒い丸首シャツではなく、襟の付いたシャツを着て講演をしていた。勝負服とまで比喩された、いつものジョブズCEOの講演ファッションを見慣れた人には、その姿にすぐに気がついたはずだ。

 この服装の変化にも、リビングメーカーへの脱皮を狙うというアップルの新たな姿勢が示されていたのかもしれない。
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