時の人

<インタビュー・時の人>オーディオテクニカ 国内営業部 ゼネラルマネージャー 伊吹武恭

2010/05/20 18:44

週刊BCN 2010年05月17日vol.1333掲載

 ヘッドホン・イヤホンが多様化している。海外メーカーの高級モデル、鮮やかなカラーやラインストーンが目を引く女性向け、ノイズキャンセリングなどの付加機能をもつユニークなモデルなど、多彩な製品が店頭に並ぶ。こうしたなか、有力メーカーのオーディオテクニカは2010年、三つの切り口を武器に新製品を投入し、ブランド力の強化を図る。(取材・文/井上真希子)

「トップブランド」を堅持
ユーザー、販売店、社内の声をじっくり聞く

Q 現状のヘッドホン・イヤホン市場をどうみているか。

 「iPodをはじめとした携帯オーディオが好調な売れ行きで、それに支えられてここ3~4年は伸びた。現在は、それが一段落してきた状況。海外の有名ブランドやサードパーティーが参入していることで、商品構成がバラエティに富んだ市場になっている。ただ、メーカーのシェア争いという観点に立てば、価格の下落が続いている。かといって、安易に価格競争に加われば単価が下がるばかりで、メーカーも販売店も得にはならない」


Q 価格下落への施策は?

 「新しい付加価値を提供しなければ、価格の下落に歯止めはかからない。当社は今年、『低音+ノイズキャンセリング』『Bluetooth』『スポーツ』の三つを軸に製品を投入していく。一つ目は、09年6月に発売した『Solid Bassシリーズ』だ。これは爆発的に売れた。二つ目は、09年11月に発売した『Sound/Phoneシリーズ』を皮切りに、ラインアップ拡充を図る。iPhoneなど、対応製品が増えてきたため、それが追い風となって需要が伸びてきた。三つ目は、いわゆる防滴・防汗モデル。当社にとっては未開拓の分野だ」

Q 「Solid Bassシリーズ」といえば、アーティストのBoAさんを起用した交通広告が印象的だった。

 「08年12月から東京メトロと小田急線、その後、09年6月にはJRの中央線、山手線、京浜東北線に展開した。これに限らず、年間を通じて訴求したいモデルについては、新聞や専門誌、ファッション誌などに幅広く広告を打っている。年末にはテレビCMも放映する。ヘッドホン・イヤホンは、身につけるもので、ファッションでもある。とりわけ、若い人にブランドを知ってもらい、認知度を上げていきたい」

Q BCNランキングでメーカーシェアの首位を維持している要因は何か。

 「製品の価値とプロモーション、営業活動が結びつき、結果的に首位を獲得したと考えている。全国を網羅する営業ネットワークによって、販売店とのパイプが強いことも背景にある。

 当社のコーポレートステートメントとして『always listening』という言葉がある。この言葉には、ヘッドホン・イヤホンで音楽を聴くことだけでなく『ユーザー、販売店、社内の声もじっくり聞こう』という意味も込められている。こうしたスタンスを貫き、吸い上げた声を製品に反映している。作り上げた製品は、マニアからゼネラルまで幅広いターゲットをカバーしている。それをユーザーが認めてくれたからこそ、首位を獲得できていると思う」

Q 今後の見通しは?

 「メーカーのシェアについては、磐石な地位を堅持していきたい。2010年は前年同期比で台数ベース2ケタ増を目指す。ただ、シェアを伸ばすのを第一にするのではなく、新製品の投入の積み重ねによって、一歩一歩前進していきたい。何よりも『トップブランド』は堅持したい。ブランドの認知を高めれば、結果は自ずとついてくる。

 当社はバンクーバーの冬季オリンピックやグラミー賞の受賞式など、各種イベントで無償の技術協力をしており、プロフェッショナル向けのマイク技術をもっているのが強み。世界規模ではマイクメーカーとして知られているが、コンシューマ製品の知名度はまだ低い。これからは、ワールドワイドでオーディオテクニカグループ全体のシナジー創出を図っていきたい」

・思い出に残る仕事

 神戸営業所に勤務していた1995年、阪神淡路大震災を経験。地震の影響で営業所が閉鎖するという境遇の中で、商品企画の責任者に就任した。毎月、アジアを中心とした海外を飛び回った。製品の買い付けや、工場などでものづくりの現場を体験。既存のオーディオ技術を応用した商品を企画・製品化したことで、国内営業部全体の売り上げを伸ばした実績がある。

 その後、03年に東京営業所へ。頻繁に販売店に足を運んで売り場をよく視察し、「ユーザー、販売店、社会がよくなる『三方よし』のものづくりの考え方を学んだ」。この考えを元に会社も成長していけるよう、責任者として指揮を執り、23区内の売上高の伸長に寄与した。「周りの方々に支えられた結果」と謙虚な姿勢をみせている。
  • 1