時の人

<インタビュー・時の人>トレンドマイクロ マーケティング本部 グローバルマーケティング統括本部 コンシューマ&SBマーケティンググループ部長 吉田健史

2010/06/10 18:44

週刊BCN 2010年06月07日vol.1336掲載

 統合セキュリティソフト「ウイルスバスター」を展開するトレンドマイクロ(エバ・チェン社長)は、2010年度、アジアコンシューマ市場への本格的な進出を図る。すでにシェアを拡大しつつある台湾をベースに、前半はシンガポールとマレーシア、後半は中国とインドをターゲットに動きを加速する。アジア進出の最前線で活躍する吉田健史コンシューマ&SBマーケティンググループ部長に聞いた。(取材・文/ゼンフ ミシャ)

アジア進出を本格化
徹底したマーケティングで現地情勢を把握

Q シンガポールやマレーシアでは、「PC-cillin」という商品名でセキュリティソフトの販売を開始した。現地の感触は?

 「まだまだ問題点が多いと感じている。雑誌広告と店舗の売り場がうまく連動していなかったり、ユーザーとのコミュニケーションに問題があったりなどで、販売はまだうまくできていない印象がある。解決の必要性を痛感している」


Q 本格的なアジア進出に踏み切った背景は?

 「今年に入って、日本国内のコンシューマ市場で『ウイルスバスター』の販売シェア拡大に成功した。さらに、台湾でもセキュリティソフトのメーカーシェアで2位になるなど、売れ行きが好調なことがアジア進出の追い風となった。

 東南アジアや中国、インドは、ウイルスの脅威が日本よりはるかに大きく、実際にPC感染などの被害を受けた人が多い。セキュリティソフトへの関心は非常に高く、巨大なポテンシャルがある市場だと考えている」

Q 日本や台湾で成功したからといって、東南アジアや中国でうまくいくと限らない。成功へ導く施策は?

 「まず、『とにかくやってみよう』という過去のスタイルとは決別した。今は徹底的なマーケティングによって、その国の市場特性や問題点など、実態をきちんと把握することに注力している。市場の全体像が明確にみえた段階で、施策の『これから』を決める。

 例えば、今年度後半の進出を計画している中国は、現時点ではまだ市場がみえていない。すぐに進出するのではなく、まずリサーチにじっくり時間をかけて、障害を取り除くことから始めるのが賢明だと考えている」

Q 進出にあたって、感じていた課題とは?

 「当社内のリソースが足りないこと。現地の販売店関係者などとコミュニケーションをとり、きちんとアドバイスを行うためには、それなりの人数が必要だ。5月からは、現地スタッフの数を倍以上に増やしている」

Q 今回アジアで開始するコンシューマ事業は、以前から着手しているエンタープライズ事業とどのような関係にあるのか?

 「お客様にブランドを認知してもらうために、コンシューマ事業の成功が欠かせないと考えている。コンシューマ事業に力を入れるということは、当社全体のブランド力向上活動でもある。ブランド力が向上すれば、エンタープライズ事業も伸びていく。両者は緊密な関係にあり、アジアでのコンシューマ事業の成功は、エンタープライズ事業の後押しになると期待している」

Q もし成功しなかったら、撤退も?

 「撤退することはない」

Q 日本や台湾など、既存市場での今後の方向性は?

 「『ウイルスバスター』は、日本市場ではある程度行き渡っている。これから急激に伸ばすというよりは、ライバルに負けないように努力する。現状では日本市場のウェートが大きいが、当社はグローバル・カンパニーなので、将来は他国での売り上げも伸ばして、日本とのバランスを取っていきたい。

 台湾では年内に新製品を出し、メーカーシェア・ナンバーワンを目指す。台湾を成功事例として、アジア進出を成功させたい」

・思い出に残る仕事

 トレンドマイクロでマーケティングの仕事を始めたとき、小さな企画が大きな成功をもたらす経験があった。セキュリティソフトをどのように「買いたい商品」にしていくかを考えていたとき、ソフトの動作に着目。PCの動作が重くて耐えきれずに叫んでいる女性をモチーフに、逆説的に「ウイルスバスター」の軽さを伝えようとしたCMで、視聴者に衝撃を与える作戦をとった。「当たらなかったらもうクビだ」と思ったくらい、斬新なアイデアだった。この企画は大当たりし、メーカーシェア3位だったトレンドマイクロを1位へと導く原動力となった。「商品の認知度を向上するために、どのコンポーネントが足りないか」を考える重要性を実感したという。
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