電子楽器の有力ブランドとして、グローバルにユーザーをもつローランド。音楽の楽しさを訴求するには、楽器の完成度を追求する「モノづくり」と、演奏を楽しむ機会や場所をユーザーに提供する、コンテストなどの「コトづくり」の二つが鍵だという。2010年3月期は、03年3月期以来の純損失という厳しい結果になった。落ち込んだ業績をどのように回復していくのか。(取材・文/井上真希子)

「モノづくり」「コトづくり」を両輪に
ニーズ広がる映像・音響事業に注力

Q 2010年3月期は、売上高が前期比25%減の750億円、純利益は20億円の損失で、減収減益となった。一番の原因は何か。

 「当社は、08年3月期に過去最高の売上高を記録した。しかし、その後はリーマン・ショックの影響で、売り上げが落ち込んだ。なかでも、売上高の約6割を占める電子楽器事業で、高額な上位モデルが打撃を受けたことが業績に響いた。しかし、中・下位モデルは売れていた。国内市場では、09年11月発売の電子ピアノで、アコースティックのグランドピアノのような自然な音を奏でる『スーパーナチュラル・ピアノ音源』を搭載したモデルが好調だった」


Q 現在の海外・国内の音楽市場をどのようにみているか。

 「電子楽器市場そのものが縮小するという懸念は抱いていない。これまでは、電子楽器メーカーとしてよりよい製品を生み出す“モノづくり”に邁進してきた。現在では、製品の魅力をお客様に伝えるショップ・イン・ショップ『Roland Planet』『Roland Foresta』を楽器専門店で展開するとともに、楽器演奏の場を提供するコンテスト『V-Drums Contest』『インターナショナル・Vアコーディオン・コンテスト』などの“コトづくり”に注力している。とくにコンテストは、ここ2年ほど海外・国内の各地で実施し、力を入れている。こうした施策によって、電子楽器の需要を喚起していく」

Q 電子楽器事業の今後の見通しを聞かせてほしい。

 「製品面では、これまではスペックを強調しすぎていた感がある。楽器をもっとシンプルに訴求し、お客様に親しみをもってもらいたい。この点を考えて製品化したのが、3月に発売したシンセサイザー『Lucina(ルシーナ)』だ。単3形充電池で駆動し、高品位なサウンドでどこでも演奏できる手軽さをアピールしている。これまでにない新しいユーザーを獲得できると自負している。また、販売面では、海外・国内市場で鍵盤楽器と打楽器、ギター関連製品のボリュームを増やしていく」

Q 海外市場とは、具体的にどの国に着目しているのか。

 「中国、ブラジル、インドだ。これらの国は、まだ当社製品があまり普及していない。販促に力を入れ、売り上げにつなげていく。中国は電子ピアノや電子ドラム、ギター関連製品など。また、ブラジルではギター関連と電子ドラムが期待できる。インドには、電子パーカッションの需要がある」

Q 海外・国内とも、これから新しい市場として見込める分野は。

 「業務用の映像・音響事業だ。この市場は、アナログからデジタルへの転換期にあって、音声と映像の融合が進んでいる。当社の業務用映像・音響機器はこのトレンドに対応し、すでに評価をいただいている。また、最近では、インターネットでライブ配信が簡単にできるサービス『Ustream』などが話題だが、このスタジオにも当社の製品を導入している。ただ、電子楽器事業と比べると、映像・音響事業はまだ事業規模が小さい。この点が課題だ」

Q 2011年度の目標を教えてほしい。

 「まずは国内市場で確固たるビジネスモデルを構築し、それを応用して海外市場に展開していく。来年度は電子楽器事業全体の売上高で、前年度比2ケタ増を狙う」

・思い出に残る仕事

 音楽は世界共通語――。オランダと米国の海外赴任生活は、それを感じた印象深い経験だった。良質の音楽を分かち合いながらグループ会社の社員と夕食を共にしたことは、仕事での大きな喜びだった。「言葉では伝わらないものがある」と、音楽の魅力を改めて肌で感じた。また、食事の席では仕事の話はもちろん、プライベートな話もすることで、社員と信頼関係を築くことができた。さまざまな国の音楽文化を体感し、海外のグループ会社の社員と人間関係を築くことができた経験は、グローバルな視点が不可欠な現在の経営施策に生きている。