インターネットの普及とともに成長してきたネット通販市場。調査会社の富士経済によれば、2010年は前年比11.2%増の2兆8156億円まで拡大する見込みという。楽天市場やYahoo!ショッピング、Amazonなどが登場した2000年前後の黎明期を過ぎた頃からは、実店舗で成長してきた大手量販店も次々と参入。この10年で、ネット通販はすっかり人々の生活に浸透した。しかし、市場が成長する一方で、競争は激化している。次のステージを目指す各社の取り組みを追った。
サイトリニューアルで
リアルとネットの流通を一本化
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ケーズ ホールディングス 塩康隆課長 |
5年前にネット通販を開始したケーズデンキ。鈴木一義・ケーズホールディングス執行役員営業本部営業企画部部長は、実店舗での売りを柱とする同社にとっても「ネット通販市場の台頭は無視できない時代の流れだった」と当時を振り返る。「
ケーズデンキ オンラインショップ」では、「ニッチな製品や、アウトレット品、PCの場合は高価格帯の製品が売れる」(塩康隆営業本部営業企画部課長)など、実店舗とは異なる商品が売れる傾向にある。また、「郊外店には世の中のトレンドの波が少し遅れてやってくるが、ネットにはタイムラグがない」という。こうしたウェブ店舗で蓄積してきた情報や、実店舗の販売網を生かす新サイトのプロジェクトが昨年に始動。4月のグランドオープンに向けて、1月20日にPCサイトと、初の試みとなる携帯サイトのテスト運用を開始した。
新サイトでは、注文された商品をユーザーの居住地近くの実店舗から配送する。本部から指令を受けた店舗は、その店舗の在庫を梱包して配送する。売り上げは、その店舗につくことになる。全国356店(1月末現在)の店舗網と、在庫管理システムを活用することで、倉庫を拡張せずに、効率よくネットの受注に対応できるオペレーションを目指す。
利用者にとってのメリットは、(1)商品が早く届く(2)近くの店から届いたという信頼感・安心感(3)返品する場合は店に持っていけばよいなど、アフターサービスへの安心感――。従来通り、実店舗でファミリー層を獲得するとともに、ネットでは若者を取り込んでいくことで、リアルとネットの顧客の相互補完を狙う。さらに、6月頃をめどに仮想商店街への出店も計画するなど、ケーズデンキはネット通販の強化に本腰を入れていく。
関連商品の拡充で
新規ユーザーをつかむ
一方、ネット通販専門の
ムラウチドットコムは、PCやデジタル家電、白物家電から派生する関連製品の拡充によって、ユーザーの拡大を図っている。同社は、前身のムラウチオンラインストアの時代、ネット通販の黎明期から取り組んできた老舗。プリンタやスキャナ、PCパーツなどからビジネスを始めたが、現在はPC関連、AV関連、家電の三本柱で商品を展開する。ここ数年は、家電商品と関連性が高い家具や雑貨が全体の販売を押し上げている。

例えば、検索エンジンで「ラック」を検索してムラウチドットコムに訪れた人が他のページを見て家電製品を購入したり、調理家電の購入を目的に訪れた主婦がフライパンやまな板も一緒に購入するなど、相互のページ遷移による相乗効果が根づいてきたのだ。矢澤克哲取締役営業担当は、「この取り組みを強化した05年~06年頃から、ユーザーのすそ野が広がってきた」と手応えを語る。「やみくもに商品を増やすわけではなく、関連商品を拡充していくことで、近隣にお店がない地域のお客様にも便利に使っていただいている」と、自信を示す。
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ムラウチドットコム 矢澤克哲取締役 |
セブン&アイ・ホールディングス傘下でネット通販を手がける
セブンネットショッピングが目指すのは、「ソーシャルコマース」だ。1月18日に行ったサイトのリニューアルでは、ユーザーが自分のお気に入りの商品の紹介や評価を掲載する口コミ投稿サービス「みんなのクチコミ」を強化した。新たに100名程度の有名人を加え、また「芸能・スポーツ・専門家」「メーカー・生産者」「金融・保険業」「主婦・主夫」「教育・学生」など、業種別の分類から自分と似た人を見つけやすくした。こうした機能によって、「この人が推薦している本を読みたい」「同じモノを使ってみたい」といった共感や“つながり感”から生まれる購買意欲の掘り起こしを狙う。
ネット通販市場がたどってきたこの10年は、PCとインターネットの普及を背景に、ITの技術力や価格競争力が勝負を決め、ユーザーは利便性を享受してきた。しかし、多くのネット通販サイトが溢れる今、ユーザーは他社にはない特徴や利用するメリットを明確に求めるようになってきている。ネット通販各社は、次のステージに向かって走り出している。(田沢理恵)
