神奈川県の老舗百貨店・さいか屋は、ネット通販システムを刷新した。ネット通販の決済や基幹業務システムを自動化するなどの効率化を図り、2010年の“お歳暮商戦”では、ネット経由での売り上げが前年同期比で倍増となった。厳しいビジネス環境にある百貨店業界だが、効果的なIT投資を決断したことによって売り上げ増を実現した事例である。システムは有力SIerのアイティフォーが、クラウド型のサービス方式で提供している。
さいか屋
会社概要:創業1872年10月3日。神奈川県を中心に小売業を展開している。川崎と横須賀、藤沢に百貨店を3店舗、町田に専門店ビルを運営。ITビジネスおよび食料品部門の強化といった営業政策の一環でECサイトを刷新した。
システム提供会社:アイティフォー
プロダクト名:ITFOReC クラウド版サービス
さいか屋の「ITFOReCクラウド版サービス」システム構成
売り上げや出荷データ入力の自動化・省力化によって、ローコストオペレーションを実現
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アイティフォー 野口恭弘 シニアスペシャリスト |
さいか屋のネット戦略は出遅れ感が否めない状況にあった。折しもリーマン・ショック以降、全国百貨店業の売上高は大幅に落ち込み、2008年は前年比4.3%減、2009年は10.1%も減少している。この苦境を打開するために、さいか屋では食品売り場の強化や外商の見直しなどとともに、ITを活用したネット販売を拡大させる営業施策を打ち出した。同社の寉田俊司・経営企画部長代理兼営業企画グループ長は、「これまでと同じことをしていては、ジリ貧になるばかり」と考えて、陳腐化した既存のネット通販システムの刷新を決断。当初は2010年夏の“お中元商戦”に間に合わせることを検討したが、スケジュールが厳しくて断念。改めて“お歳暮商戦”に向けてITベンダーの選定を進めたところ、アイティフォーが候補に挙がった。
システム選定のポイントは、既存のPOSや店舗ギフトシステムなど基幹系システムとの連携と、百貨店のネット通販として十分な機能を備えていること。加えて「お歳暮商戦に間に合わせる」(さいか屋の石川浩二・営業企画グループマネージャー)ことだった。アイティフォーが受注したのは2010年6月で、本稼働までに残された期間は実質4か月しかない。それでも受注できたのは、アイティフォーがネット通販システムを「ITFOReC(アイティフォレック)」としてパッケージ化していたからだ。小田急百貨店や近鉄百貨店、東急百貨店などの百貨店に納入実績があり、かつクラウド版サービスをスタートさせていたことが勝因となった。
百貨店の売れ筋である贈答品は、お歳暮や粗品、お礼といったのし紙や、自宅に二重包装で届け、外側の包装を剥がして、きれいな包装状態で客先に持参したいという「贈答品ならではのきめ細かい対応が求められる」(さいか屋の坂井雄・営業企画グループサブリーダー)。ITFOReCは、こうした百貨店ならではの機能を備えていることが、受注へのプラス材料となった。また、アイティフォーは、流通・小売業の基幹業務システムで実績豊富なSIerであることから、「基幹業務システムとのつなぎ込みは、当社の強みを発揮すべき本分だ」(アイティフォーの野口恭弘・流通・eコマースシステム事業部営業部シニアスペシャリスト)と位置づけ、納期が短くても過去の経験を生かしてこなせると判断した。ネット通販で受注した売り上げや出荷データは、旧来のさいか屋のシステムでは一部手作業で入力する必要があった。ITFOReCでは、これを基幹システムと直接接続することで自動化。省力化とローコストオペレーションを実現している。
納入形態は、システムを客先に設置するオンプレミス型ではなく、クラウド型とした。ITFOReCクラウド版サービスを採用した百貨店は、今回のさいか屋が初めて。客先設置に伴う作業を削減すると同時に、月額料金方式なので初期投資を抑えることができる。2010年11月にネット通販システムを予定通り刷新。その直後に迎えた“お歳暮商戦”では前年同期比で2倍余りを売り上げるなど、さいか屋の経営基盤の強化に貢献している。(安藤章司)

写真右から、さいか屋の坂井雄サブリーダー、寉田俊司部長代理兼グループ長、石川浩二マネージャー
3つのpoint
・基幹業務システムとの自動連携で作業効率を大幅に改善
・クラウド方式で客先設置の作業をなくして初期投資を抑制
・最新のネット通販と伝統的な百貨店の販売手法を両立