世界のITのうねりを確かめる
脱サラして沖縄で雑貨店を開いたがうまくいかず、そのままバックパックを背負って世界放浪の旅に出かけた。「稼ぐ仕組みが思い浮かばないまま会社を辞めて苦悶していた」と、当時を振り返る。
しかし、ただ海外を放浪していたのではない。安宿で相部屋になったり、食堂で心やすくなった人に「どんなアプリをスマホで愛用しているのか」を聞いて回った。世界のITのうねりを自分の目で確かめるためだ。日本にいると“巨人”であるGAFAばかり目につくが、実際は言語や商慣習、宗教の違いによって実に多種多様なアプリが愛用されていた。
難解さが生産性を下げると確信
初めて見るアプリも多く、操作方法もよく分からない。思い起こせば企業で使っている業務アプリも業種・業務に特化したものばかりで、手組みやカスタマイズしたアプリもある。操作方法が分からなくなるたびに「時間を使ってヘルプデスクに問い合わせたり、隣の人に聞いたりすることは、生産性の低下につながる大きな課題ではないか」との思いに至った。
中国、マレーシア、インド、ドバイ、イスラエル、ロシア、ドイツ、米国など12カ国を巡ったのちに起業したテックタッチでは、業務アプリの操作手順を示したり、英数・カナ漢字、半角・全角の文字制御、社名を入力する際に「株式会社まで記入すること」といった注意書きを、ユーザー企業が自ら設定し、表示するアプリを開発した。
大型案件の始動で従業員倍増へ
狙いどおり、ユーザー企業からの評価は上々で、キヤノンマーケティングジャパンやアシスト、PwCグループといった販売パートナーも取り扱いを始めてくれた。専門的で難解なアプリが多い官公庁や自治体、金融業のユーザー企業からの引き合いが多く、直近では官公庁向けの大型プロジェクトもスタート。従業員数も向こう1年で今の倍の120人規模に増やす予定だ。
今後は生産性が高い従業員の操作手順を分析する機能の拡充や、アジア近隣や北米市場への進出を検討するなど業容拡大に向けてアクセルを踏み込む。
プロフィール
井無田 仲
1980年、愛知県生まれ。2003年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、新生銀行入行。08年、米国コロンビア大学ビジネススクール(MBA)卒業。同年、ドイツ証券入社。12年、ユナイテッド入社。18年、テックタッチ創業。代表取締役に就任。
会社紹介
ウェブアプリの操作方法や手順を画面上に表示するテックタッチを開発。漫画の“吹き出し”のようにコメントを画面上に表示するもので、ユーザー企業の現場担当者がコメントを編集し、入力作業の時間短縮やヘルプデスクへの問い合わせ件数を削減。生産性を高めるツールとして活用が進んでいる。