いま、パソコン産業は、デジタル情報産業へと広がりを見せようとしている。通信、放送など、パソコン産業を取り巻く様々な産業や製品群との融合によって、いわゆる「デジタル情報産業」という新たな産業領域が創出されようとしているのである。そうしたなか、いち早く、デジタル情報産業、そしてデジタル情報革命に目を向け始めたソフトバンク・孫正義社長とマイクロソフト・古川享会長の2人に対談を願った。2人のデジタル情報産業に対する「想い」を存分に語ってもらった。
パソコンの枠を越えて デジタル情報革命が本業、融合から新たな産業が
――いま、パソコン産業が大きな転機を迎えているというのが、お二人に共通した見方だと思いますが、どんなことが起ころうとしているのかをそれぞれの視点から分析していただけますか。
古川 パソコン産業そのものが、あらゆる方向に広ろうとしています。例えばパソコンにしても、今年あたりから、女性や子供、お歳を召した方にも使っていただけるファクターが出てくると思います。それを実現するために、家電品とウインドウズの融合、テレビとパソコンの融合といったものが、少しずつ明らかになってくる。小型PC、組み込み型PC、テレビとPCが融合した商品までが出てきて、インフラが整うことで、新しい産業が生まれてくる。そのきっかけになる年ではないでしょうか。
――融合というキーワードが出ましたが、孫さんにとっては事業の「融合」がキーワードになりますか。
孫 そうですね。古川さんも僕も、頭のなかは、「パソコン」という従来の狭い枠のなから、もう少し広いところに移りつつある。最近、僕は、もともと何をやりたかったのかなぁと考えるんですが、「デジタル情報革命を起こしたかった」んだということに気がついたんです。実は、このことは、この業界をリードしている人の多くが感じていることじゃないかと。例えば、ビル・ゲイツだって、パソコンだけにこだわってはいないはずです。
そうした意味で、もうパソコン産業の革命ではなくて、デジタル情報革命という時代なんです。ソフトバンクはJスカイBをやっていますが、「本業と離れたことをやっているんじゃないの」という人がいる。でも、僕にいわせれば、「本業って何なの?」と。ソフトバンクは、デジタル情報革命が本業であって、それを実現するために事業を推進している。実は、そういう志を持っている人が産業内には何人かいて、それが、ビル・ゲイツであり、ビル・ジョイであり…。
――孫さんもしかり、というわけですね。
孫 まぁ、僕もその端っこにはいるかもしれないけど…。でも、そういう思想の人は、目を見ればわかるんです。例えば、ジョン・スカリーとか、ジム・マンジとかは、あんまりそういう思想が入っていないんじゃないかと(笑)。ああ、個人名はまずいか(笑)。僕にいわせると、西さんは、そういう思想がはいっているんですよ。エリソン(オラクル)も、フィリップ・カーンも、スティーブ・ジョブズも、そうですよ。こういう人たちは、ネットワークコンピュータとか、ワークステーションとか、インターネットとか、それぞれにアプローチの仕方や方法論は異なっても、デジタル情報革命を目指しているという点では、同じ思想の持ち主なんですよ。
孫「古川さんは『技術の羅針盤』」 古川「信念を貫き通す力に敬意」
――デジタル情報革命をやるんだという共通の思想がある人は、目を見ればわかるといわれましたが、孫さんから見て、古川さんはどうですか。
孫 古川さんは、ビル・ゲイツが一目も二目も置くくらいテクノロジーに対する嗅覚と、センスを持ってる人ですね。ビル・ゲイツも、本当に好奇心が旺盛で、同じような人に本田宗一郎さんがいる。ビル・ゲイツと同じ目の色なんですね。古川さんも同じで、新しい技術に対して、子供のような目になるんですよ。そういう意味で、古川さんに会えるのは本当に楽しみなんです。なんか、また、面白いものを持ってきてくれるじゃないかと。
振り返ってみると、僕がやってきた事業の大半は、何年か前に古川さんが、「これは、面白いでしょう」と持ってきたものが根底にある。例えば、CD-ROMのオンハンドにしても、何年か前に「これからはCD-ROMです」と古川さんがいってくれたことがある。Windowsについても、「これ、いいでしょう」と一生懸命、窓を開けたり閉めたりしながら、見せてくれた。古川さんは、テクノロジーという点に関しての、僕の「羅針盤」みたいな人なんですよ。
で、僕は何かというと、やはり「実践者」であると。明治維新の世界でいうと、古川さんは勝海舟とか、ジョン・マンジロウとか、新しいものを見せてくれる。で、僕は、坂本龍馬なんですよ。ちゃんと、そろばんを弾いて、薩摩にも長州にも、お米を持ってくるからとか、大砲を持ってくるからとかいいながら話にでかけていく(笑)。これが僕の興味のあるところですし、役割分担でもあると。古川さんは、実践者と思想家の両面を持っていますし、しかも、常に一歩先を見ながら、進んでいるという点が魅力ですね。
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