――新しい技術への好奇心という点で、古川さんにお伺いしたいのですが、家電との融合や、組み込み型PCというのは、本当にこの数年で現実的な商品になってくるのでしょうか。 古川 マスとして広がるには2~3年かかるでしょうが、テクノロジーとして絵に書いた餅ではなく、実際にショウで触れたり、製品評価のために一部の人が使い始めるというのが今年じゃないでしょうか。しかも、話題性はあるが、何も使えないという今のインターネットテレビではなくて、もっと効果が享受できるようなものがね。数年先になって振り返ってみると、これを初めて手に触れたのが、実は今年だったというものがいくつか出てくるのではないでしょうか。
――お二人は、もともとパソコンの創世期からこの世界で活躍され、しかも、思想的にも近いもの感じます。ただ、古川さんは、パソコンの社会的意義とか、文化かと、テクノロジー、トレンドといったところに向き合っている。それに対して、孫さんは、デジタル情報革命という土壌で、ビジネスという点に取り組んでおられる。言葉は悪いかもしれないが、「ビジネスの鬼」という印象がある。同じ様なスタンスでありながら、背中合わせで違うところを見ているように思えるのですが、お互いの存在をどう感じているのですか。 古川 僕は、孫さんの一貫性があるところが好きなんですよ。例えば、この会社とこういう付き合いをしていきたいと思ったら、途中でたまたますれ違うことがあっても、最後にこういうことをやり遂げたいという信念をずっと持って貫き通す。それと、孫さんは、様々な人からエネルギーを吸収する力が強い。それと同時に相手に与える力も強いんです。
例えば、孫さんのビジネスの仕方は、負けた人まで「ああ、やられちゃったなぁ」と、スポーツのような爽やかさを感じさせてしまうところがある。これは他の産業にはなかった世界だと思うんです。よく、こういうやり方が成立するなぁ(笑)と。
孫 まあ、私の場合、名前が、損(=孫)しても、正義だから(笑)。手段を選ばず勝つというのは、長い目で見たら良くないことですね。私自身、大きな欲はあるんですが、小さな欲というのはあまりないんです。だから、パートナーシップでできるものがあれば、できるだけパートナーシップでやりたいと思っているんです。パートナーシップで力を合わせることで、より大きく、より早く、より確実に実現できる。それで成果が得られたら、成果をわけあってもいいじゃないかと。それが基本的な考え方なんです。
志とか、理念とか、こういったものが大事だと思うんです。これをなくして、「商売のための商売」というようになってしまうと、収支を追うようになっちゃう。これはよくない。時として、この志を実践するために、計算を度外視して、損してでも、やらなくてはいけないということもある。でも、大半の場合は両方とも取れますよ(笑)。
孫「マネーゲームでなく勝機はある」 古川「我々は24時間、勝負をしている」
――ソフトバンクは、株価の低下とか、過剰投資だとか、色々と指摘されていますね。本当に大丈夫なんですか。孫さんはいつも強気ですが、本当に勝機があると。 孫 それは本気で思っています。また、やれないことはやっちゃいけないと思う。リスクの範囲というのがはあります。しかし、度を超えちゃいけない。かなりの計算や、シミュレーションをやっても、振れ幅はありますが、それでもちゃんと成り立つということは計算しておくべきです。
例えば、COMDEXというと、あれは「のれん代」がどうだとかいわれ、形があるようなないような、まるでマネーゲームのようないわれ方をしていますが、この業界にいれば大変重要な価値あるイベントだということが本能的にわかりますよね。
ビル・ゲイツも、アンディ・グローブも、毎年、時間を割いて、あの場所に来て、労力を惜しまずに基調講演をやる。また、それに対して、志を持った新しいエネルギーが世界各国から集まってくる。それ自体、重要な価値があるわけです。その価値が、来年、すぐになくなるわけがない。
どう縮小したって、あと3年や5年は続きますよ(笑)。もっとも、僕はそれ以上に拡大すると思っていますけどね。少なくとも、この7年くらいは9割減るっていうことはないだろうと。(笑)。だから、7年で元本を全部返済できるとなれば、まったく問題はないんですよ。
――パソコン産業が、デジタル情報産業へと発展するなかで、自動車産業と並ぶような産業規模に発展することになると思います。そのなかで、これまでパソコン産業に携わっていた人達が、流れに追いつかず、置いて行かれるのではないかという不安もあるのではないでしょうか。 孫 いや、そんなことはないですよ。要は、役割分担であって、自分は、どこを分担して掘り下げて行くか、あるいは広げていくのか、という話だと思うのです。大切なのは、どこに中心点を置くかということです。デジタル情報産業というのは、大変なスピードで、大きな規模に発展しようとしている。それに対して、マイクロソフト、インテルを中心とした米国の会社は、真剣に取り組んでいます。
ところが、日本の場合は、バブル崩壊以降、「一億総信号待ち状態」となっている。動くこと自体が危険というような風潮すらある。これは逆に危険なことですよ。世界の情報革命というのは、すごい規模とスピードでやってきているのだから、これに対して正面から取り組むことが必要でしょうね。
古川 それと、境界線が薄らいできていることも大きな変化ですね。例えば、CD-ROMの場合、パソコン用CD-ROMタイトルは、大ヒットでも5万枚しか売れなかった。だけど、音楽産業と一体化することで、300万枚も400万枚も売れるようになる。音楽CDのなかに、パソコン用のソフトを組み込むわけで、これによって音楽産業もひとつのプラットフォームとして考えてもらっていい、という道筋を作ることができるようになった。
――ソフトバンク、マイクロソフトは、よく寡占のトップに立っているといわれますね。それに対しては、どう思われますか。 古川 2つありますね。ひとつは、新たに潤った人をどれだけ作ったかということ見方です。マイクロソフトは、米国から入ってきた企業だという人がいますが、逆に日本から海外への輸出に多大な貢献をしていると思うんです。ハードメーカーのみならず、周辺機器メーカーでも、このプラットフォームによって海外で成功しているわけです。
また、雑誌社にしてもそうですよね。これだけ多くのパソコン雑誌が成り立っているのはどうしてでしょうか。決して、マイクソロフト1社が潤っているわけではないのです。もうひとつは、慎重に言葉を選ばなくてはならないのですが、我々は24時間勝つための努力をしてきています。だから、遊んでいた人に指を刺されたくないなぁと。
一歩間違えば、驕っていると取られる言葉ですが、ビル・ゲイツでも、孫さんでも、このテクノロジーをどう活かすか、誰と組んで、どう勝たなくてはいけないかを真剣勝負しているんですよ。外野席から言っているのではなくて、グランドに降りて、ボールを投げて、打って、勝った負けたということを真剣にやっているのです。外野席から、「あの勝ち方は良くないよ」というのはおかしな話ですよ。
孫 勝つこと自体は悪いことじゃない。勝つことはお客さんに支持されるということです。支持されるということは、よりよい物を提供したり、サービスができているということです。だだ、負けた人達が、「あれはアンフェアだ」と思うようでは良くない。何がフェアで、何がアンフェアかという尺度は自分達で持っていなくてはけいないでしょうね。それと、人々に喜んでもらえるために勝つんだということを認識していればいいのではないのでしょうか。
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