その他
松下電器の02年経営戦略 思いきった人材抜擢を
2002/01/21 21:12
週刊BCN 2002年01月21日vol.925掲載
松下電器産業が、恒例の新年経営方針説明を実施した。中村邦夫社長は、「破壊のための構造改革の手は打ち終え、今年は創造とV字形回復に向けて動き出す。そのために、5子会社の完全子会社化に踏み切る」などの基本方針を明らかにした。(石井成樹●取材・文)
IT不況に苦しんでいるのは松下だけではないが、日本を代表する超優良企業であるがゆえに、同社および中村社長の発言は大きな注目を集めてきた。今回の中村社長の発言は、もう一つ歯切れが悪く、再生へのシナリオは見えきれないが、5社の100%子会社化は一度は通らなければならない道なのだろう。
今回発表された措置は、時期的にはむしろ遅すぎたのではないだろうか。
いささか古い話になるが、80年代のOAブームと呼ばれた時代、ファクシミリはかつての松下電送機器、複写機は松下本体の事業部、ワープロはデスクトップを松下通信工業、ポータブルを松下本体の事業部が商品化していた。
ファクシミリは高いシェアをもっていたが、そこで開拓した販売ルートはほかの商品では生かし切ることができず、ついに相乗効果は発揮できなかった。
当時、販売の窓口は松下電器に一本化されていたので、いずれ相乗効果が出てくるという話は何度も聞かされたが、ついにその兆しはなかったように記憶する。OA専業メーカーとして背水の陣で臨んでいたリコーやキヤノンとの意識の差は歴然としており、今では松下のOA関連機器の存在感は極めて薄いものになってしまった。
この点は総合電機メーカー共通の傾向で、松下1社だけではないが、新しい商品、新しいコンセプトに対し、事業部制の壁が高すぎることを、感じる人は感じていたはずである。
総合電機メーカーは多かれ少なかれ、事業部に相当大きな権限を与えてきた。今回のIT不況で最も深い傷を負ったのがこうした企業群であることを考えると、事業部制の弊害が露呈した結果とも言える。松下の決断は遅すぎたとはいえ、英断だろう。
事業部の壁を越える松下的手法として注目していたのは、「P3事業」だ。パソコンの周辺機器を販売するにあたって、「P3」という共通ブランドを設け、販売店、ユーザーに訴求するという試みだった。今回、完全子会社化の対象になった九州松下電器、松下寿電子工業なども積極的に賛同、子会社、事業部の枠を超えて共同歩調を取り、P3のブランド訴求作戦は成功への道を歩んでいるように見えた。
しかし、昨年の破壊の段階では、このP3戦略を放棄したようだ。部隊は残っているので解体したわけではなさそうだが、外部から見ても動きが鈍っていると感じる。
今回の中村社長の会見では、完全子会社化した5社をどうするのかについては、「これから検討する」とし、具体像の提示を避けた。その意味で、今回も破壊だけが先行、創造へのプログラムが見えないという批判は出そうだ。しかし、巨艦の舵を切り変えるのはそれなりの時間がかかる。やむを得ないといったところか。
今後の松下戦略で注目されるのは、情報家電、あるいはユビキタス戦略である。21世紀初頭の成長産業との認識は共通のものとなっているが、ここでどのような戦略を打ち出すのか、それによって同社の将来は左右されるのではないだろうか。
この分野で、ソニーと比べて松下の最大の弱点はパソコンにある。家電、新時代の商品では、DVDにだけいくら強くても、情報、つまりコンピュータに弱くてはユビキタスの主導権を握るのは難しい。
パソコンは昇りかけては落ちることの繰り返しで、本当に存在感がなくなってしまった。技術がないわけではないはずだ。何が欠けているのだろうと勝手に想像すると、どうもコンセプトメーカーがいないのではないかと思える。
コンセプトメーカーとは、未来への明確なビジョンを描き、リードしていく人間である。とくに立ち上がり期のビジネスでは、そのような役割を担う人材が必要だ。
松下電器には、本当に人材がいないのか。あるいはそうした人材を抜擢できる仕組みをもっていないのか。ユビキタスの世界でビジョンをもった強力なリーダーを養成しないと、松下の未来は大変だろうなという予感はする。
松下電器産業が、恒例の新年経営方針説明を実施した。中村邦夫社長は、「破壊のための構造改革の手は打ち終え、今年は創造とV字形回復に向けて動き出す。そのために、5子会社の完全子会社化に踏み切る」などの基本方針を明らかにした。(石井成樹●取材・文)
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料)
ログイン
週刊BCNについて詳しく見る
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。
- 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…