アルプスシステムインテグレーション(ALSI)は、親会社であるアルプスアルパイングループ外に向けたSIビジネスを伸ばしている。Webフィルタリングなどの情報セキュリティーや製造業向けの製造実行システム、「Microsoft 365」の導入から保守サポートまでをワンストップで提供するサービスなどの販売が好調に推移し、ALSI全社の増収基調を支える原動力となっている。金子央社長はAIなどへの投資を積極的に進め、自社製品の開発を強化する方針で、将来の目標として現状の約3倍となる売上高500億円を掲げる。
(取材・文/安藤章司 撮影/大星直輝)
グループ向けと外販の比率が逆転
――増収基調が続いていますが、売り上げを牽引している要因は何ですか。
当社は親会社のアルプスアルパインをはじめとするグループ企業向けのSIと、グループ外に向けた外販のSIという大きく二つのビジネス形態があります。2021年度まではグループ向けの売り上げが6割、外販が4割で、グループ向けビジネスの割合が高い状況でしたが、22年度に半々となり、23年度は外販の割合が6割に増えて逆転しました。グループ向けが微増で推移しているのに対し、外販が伸びていることが売上高を押し上げている構図です。本年度も増収を目指しています。
――グループ外に向けたビジネスでは、どのような分野が伸びていますか。
外販が伸びた要因の一つに学校向けWebフィルタリングの販売の好調が挙げられます。25、26年度はGIGAスクール構想で導入したシステムの更改時期に当たり、独自に開発したマルチOS対応のクラウド型Webフィルタリングの継続、あるいは新規採用が増えていることが追い風となっています。
Webフィルタリングは子どもたちにとって有害なコンテンツを遮断するサービスで、何を遮断し、何を遮断しないかをデータベース(DB)化しています。当社のDBは精度が高く、使い勝手が良いことに加え、アクセス履歴や検索語を基にSNSでのいじめや不適切な言動の兆候を早期に把握できるといった仕組みがあり、学校教育に適したサービス構成となっています。こうした点を評価いただき、販売増につながったと手応えを感じています。
――Webフィルタリングなどのセキュリティー事業に強みを持っているのですね。
当社は1996年に日本で初めてWebフィルタリング事業に参入して以来、セキュリティーに強みを持っており、直近でもセキュリティー事業が売上構成比のまとまった比重を占めています。近年ではゼロトラスト・ネットワークの構築や、端末を監視して不審な振る舞いの検知・対処を行うEDRなどのビジネスも伸びています。Webフィルタリングは自社開発のものを活用していますが、EDRは米SentinelOne(センチネルワン)の製品がよく売れています。AIによる自動化技術に力を入れている製品で、人手による対応を最小限に抑えつつ、素早く脅威に対応できることが売りです。
変化に適応する事業ポートフォリオへ
――セキュリティー以外には、どのような分野が伸びていますか。
親会社が製造業ということもあり、当社も製造業向けITシステムの構築実績を多く持っています。ここ数年を見ると、製造業ユーザー向けの製造実行システムのプロジェクトが増えています。円安基調が続いていることや、地政学的リスクを踏まえたグローバル・サプライチェーンの見直し機運の高まりを背景に国内への製造回帰、マザー工場を増強する投資が増えている可能性があります。
製造実行システムは、製造現場でリアルタイムに在庫や原価、人員配置などを管理するもので、多くは新しい工場を新設するときや、基幹業務システムの刷新と合わせて導入されます。当社では製造実行システムとして仏Dassault Systemes(ダッソー・システムズ)の「DELMIA Apriso」を主に取り扱っており、同製品の専門的な知識を持つ技術者を100人余り擁していることも強みの一つとなっています。
ほかにも、Microsoft 365の導入から活用、運用に至るまでワンストップで支援する当社独自のMicrosoft 365おまかせサービス「Swindy」の販売が順調です。「Teams」や「SharePoint」などを組み合わせ、働き方改革に主眼を置いて導入するケースが多く見られます。業種・業態を問わないソリューションであるため、民間企業はもとより、自治体にも納入しています。手離れのよい商材であることから、販売パートナーにも多く取り扱っていただいています。
――将来に向けた事業ポートフォリオはどのように見ていますか。
足元ではセキュリティー関連事業の売り上げ構成比が比較的大きいですが、私自身は将来に向けた事業ポートフォリオを「こうしよう、ああしよう」と固定的に考えるのではなく、市場や顧客ニーズの変化に合わせ、柔軟に変えられることのほうが大切だと考えています。
とはいえ、変化を待つだけの受け身の姿勢は通用しませんので、WebフィルタリングやSwindyなどに続く商材やオファリングとして、クラウド型の経費精算やリモート接客・受付のシステムといった自社製品を開発しています。リモート接客・受付は、例えば金融業で専門知識を持っている職員が、遠隔地の店舗に来店した顧客に向けて専門的な助言を行う用途で利用していただいています。
本年度から新規事業や研究開発を担う組織を強化し、技術進化が著しいAIを既存の製品やオファリングに組み込み、付加価値を高めていく取り組みを加速させています。自社商材による収益の柱を増やしていくためにも、AIは不可欠な要素であると捉え、積極的に投資を行う考えです。
「言うべきことはしっかり言う」
――25年4月にトップに就任して以来、顧客や従業員にどのようなメッセージを発してきましたか。
23年に当社パーパスとして「ITと応えるチカラで、カスタマースマイルを拡げていきます」との文言を、有志社員が集まって策定しました。当社社員の思いが詰まっていると自負しています。われわれが提供するITやサービスで顧客に笑顔になっていただき、その笑顔を増やしていくことを行動の起点にするとの目標で、社長に就いてからも、このパーパスを機会あるごとに唱えるよう心掛けています。
――金子社長のキャリアについても教えてください。
アルプス電気(現アルプスアルパイン)入社後、情報システム部に配属となり、その後、当社へ出向・転籍となり、現在に至っています。私自身は理工学部出身で、学生のときから「ITで飯を食っていく」ことを信条としていましたので、情シス部や情シス子会社への転籍は願ったり叶ったりでした。
当社としては外販事業を伸ばしてきた歴史がありますが、私自身はグループ向けSIを担当していた期間のほうが長いです。コンピューターが誤作動を起こすとされた「2000年問題」への対応では、マレーシアの首都クアラルンプール近郊にある親会社の現地法人のシステム改修を担当し、そのまま現地事業所のIT担当者として3年滞在したこともありました。
私が外販を本格的に担うようになったのは、17年に役員に就任した頃からです。それまでのキャリアで培ってきたノウハウを、国内外に工場を展開するような大手製造業ユーザー向けSI案件に生かせるよう努めてきました。
――大規模なSI案件でどのような点が大切だとお考えですか。
過去に担当した親会社の基幹業務システム刷新プロジェクトでは、親会社のプロジェクト担当者と当社スタッフ、外部のITベンダーなど、組織や会社の壁を越えた共同作業となりましたが、プロジェクトの成功のために「言うべきことはしっかり言う」と心掛けていました。大きなプロジェクトになればなるほど、さまざまな組織や会社の壁に阻まれることになります。それを取り払えるかどうかが、結果を大きく左右すると、実体験を通じて学びました。
――今後の経営目標についてお話しください。
分かりやすい指標として、創業50周年に当たる40年度をめどに年商500億円を目指したいと思っています。昨年度(25年3月期)の売上高が173億円でしたので、3倍近い売り上げを視野に入れて事業拡大を推し進めていきます。
眼光紙背 ~取材を終えて~
創立50周年に向けて成長を維持していくには、「全社が一丸となって事業に取り組むことが大切だ」と説く。「一丸」と言うは易しだが、会社組織である以上、部門ごとの見えない「壁」がそれを阻む。例えば、すぐ隣の部署の人に協力を求めても「上長を通してくれ」と言われる可能性もあろう。
組織である以上、避けられないことかも知れないが、それでも「思ったことを飲み込まず、遠慮せず言うこと。礼儀と遠慮は違う」と話す。組織運営上の手続きや上司・先輩への礼儀などいろいろあるにせよ、それを理由に「黙ってしまっては、全社一丸となって前へ進むことはできない」
パーパスで定めた「カスタマースマイル(顧客の笑顔)」のために何ができるかを考え、組織の壁を越え、忌憚ない意見を言い合えるようにする。顧客のやりたいことを達成できれば、自ずと次の仕事につながり、自社の成長にも結びつく。
プロフィール
金子 央
(かねこ ひさし)
1970年、東京都生まれ。93年、明治大学理工学部卒業後、アルプス電気(現アルプスアルパイン)入社。同年、アルプスシステムインテグレーション(ALSI)出向。98年、ALSI転籍。2000年、アルプス電気マレーシア法人に赴任。06年、ALSI生産情報課課長。13年、東京ソリューション部部長。17年、取締役。23年、常務取締役。25年4月1日付で代表取締役社長に就任。
会社紹介
【アルプスシステムインテグレーション】大手電機メーカーのアルプスアルパイングループのSIer。2025年3月期の売上高は173億円。売上構成比はアルプスアルパイングループ向けが4割、外部顧客向けが6割を占める。従業員数はALSIグループ全体で約900人。