その他
変化するアウトソーシング 意思決定支援から戦略的活用まで
2002/04/01 15:00
週刊BCN 2002年04月01日vol.935掲載
戦略的アウトソーシングが叫ばれて久しい。従来の受託型アウトソーシングは、省力化などを狙ったものが多かったが、ここ数年、意思決定支援型、あるいは戦略的優位に立つためのアウトソーシングが注目を集めている。同時に企業のコアコンピタンスに経営資源を集中するのにともない、水平分業化が進展。アウトソーシングの重要性は、ますます高まっている。こうした動きを背景に、情報分野においても、インターネットの普及で新たなアウトソーシング手法を模索する動きがある。アウトソーシングは、今後、どういった方向へ向かおうとしているのだろうか。(大河原克行●取材/文)
運用面での差別化がカギ
●意思決定を支援、1対1の協業型
アウトソーシングと一口にいっても、その形態は大きく様変わりしている。
従来のアウトソーシングは、省力化を目的にした受託型の形態が中心となっていた。いわば下請け的な要素が強く、企業とアウトソーサーとの間には自然と上下関係が存在していた。
だが、ここ数年、戦略的アウトソーシングという言葉に代表されるように、意思決定支援型のものや、競合他社に対して戦略的優位性を狙ったアウトソーシングが増加してきた。
また、企業が経営資源をコアコンピタンスに集中する動きが加速している今、水平分業が進展、アウトソーサーを効果的に活用しようという動きが出てきている。
その最たる例がデルコンピュータだ。競合パソコンメーカーからは、「デルはパソコンメーカーではなく、世界最大のCTOベンダー」とさえ言われるが、その水平分業型の仕組みは、低迷するパソコン市場において唯一シェアを伸ばし収益を上げている点で、戦略的アウトソーシングの成功例といえる。
戦略的アウトソーシングの特徴は、従来の下請け的な仕組みから、1対1の協業型ビジネスモデルを採用している点だ。コ・ソーシングともいわれる仕組みで、互いのコアコンピタンスを生かしたうえでアウトソーシングを進めるという形態だ。生産分野においては、EMSを積極的に活用するアウトソーシングが増加しているが、これも互いのコアコンピタンスを生かす例であるといえる。
だが、すべての企業において、アウトソーシングを活用する方が良いかというと決してそうとはいえない。
事実、シャープのパソコン事業は昨年来、垂直統合型の事業形態へと転換し、設計、開発、生産、サポートまでを自社リソースだけで対応。国内のパソコン市場が2ケタ減の低迷を見せるなかで、前年比2%増という出荷実績を達成した。
シャープの場合、ノートパソコンに事業を特化することで、同社が得意とする液晶技術の強みを発揮できるという点と、事業規模が成長段階にあるという背景が、垂直統合型のビジネスを推進しやすくしている。水平分業に移行する他社と同じことをやっていては差別化できないとの判断も働いたようで、垂直統合による利点を模索していった経緯もある。
●最新のソリューションをオン・デマンドで利用
情報分野におけるアウトソーシングも変化しようとしている。
表は、「戦略的アウトソーシング」という言葉を日本でいち早く提唱した東京都立科学技術大学の島田達巳教授がまとめた、情報システム分野におけるアウトソーシングの変化である。
1950年代後半から始まったアウトソーシングは、情報処理センターの躍進に見られるように、計算業務の委託といった例が中心で、高価なコンピュータを導入できない企業や自治体がコスト削減、省力化を目的として行っていた。
80年代後半から見られた第1期の戦略的ITアウトソーシングでは、基幹事業の拡大やコアコンピタンスを強化するためのアウトソーシングが見られるようになった。低価格化したパソコンを企業が導入し始める一方、意思決定プロセスの短縮化、ITとビジネスプロセスの統合といった流れのなかで、アウトソーシングを活用し、それを請け負うアウトソーサー自身も、経営責任を負うといった動きが出てきたのもこの頃だ。
そして、90年代後半からの第2期戦略的アウトソーシングでは、インターネットの進展により、新たな事業進出のための情報アウトソーシングの活用や、コ・ソーシングを推し進めた活用なども出てきている。
こうしたなか、IBMは「e-ソーシング」という取り組みを一昨年から開始しており、その成果が世界規模で出始めている。
なかでも、「e-businessオン・デマンド」戦略を強力に打ち出し、すでにアメリカン・エキスプレスなどがこれを採用している。
e-businessオン・デマンドは、IBMが所有する大型コンピュータおよびソリューションを従量制の料金体系でユーザーが利用する。ユーザーの事業規模の拡大・縮小に合わせて、使用するインフラを柔軟に変更できるというものだ。
米IBMのIBMグローバルサービス部門e-businessオン・デマンドストラテジー担当・デヴァジット・マッカジーバイスプレジデントは、「e-businessオン・デマンドによって、5-10年後の企業の情報システム部門は、将来のシステム拡張計画を考えなくて済む。先進的な技術的スキルをもつ必要もなくなる。例えば、発電所の作り方をわれわれが知らなくても電気が利用できるように、情報システム部門でさえも、そこまでの知識を必要とせずに最先端の情報システムを利用できるようになる」と予測する。
だが、e-businessオン・デマンドは、標準化されたアプリケーションを利用することから、ハード、ソフトでの差別化は難しくなってくる。
マッカジーバイスプレジデントは、e-businessオン・デマンドの重要な視点として、「運用面での差別化」を強調する。
「今後のITトレンドは、どんなアプリケーションを使っているかではなく、どのように使っているかという点が重視される」と続ける。
アウトソーシングの対象は、ハード資源、ソフト資源、そしてネットワーク資源へと変化してきたが、e-businessオン・デマンドのような仕組みが定着してくれば、今後は、運用面の差別化がアウトソーシングの対象となってくるかもしれない。
戦略的アウトソーシングが叫ばれて久しい。従来の受託型アウトソーシングは、省力化などを狙ったものが多かったが、ここ数年、意思決定支援型、あるいは戦略的優位に立つためのアウトソーシングが注目を集めている。同時に企業のコアコンピタンスに経営資源を集中するのにともない、水平分業化が進展。アウトソーシングの重要性は、ますます高まっている。こうした動きを背景に、情報分野においても、インターネットの普及で新たなアウトソーシング手法を模索する動きがある。アウトソーシングは、今後、どういった方向へ向かおうとしているのだろうか。(大河原克行●取材/文)
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