NTTブロードバンドイニシアティブ(NTT-BB、和才博美社長)は4月1日から、「BROBA(ブローバ)」サービスの本格提供を始めた。ブローバは、(1)個人利用者向けの情報提供、(2)個人利用者同士が映像をやり取りする機能、(3)法人向けにNTT-BBが構築した情報流通システムの提供――といったサービスで構成されている。昨年11月末から東京、大阪地区限定で無料試行サービスを提供していたが、いよいよ全国展開に乗り出した。ネット業界では、NTT-BBとブローバについて、「NTTがついにインターネット事業に本腰を入れ始めた」と警戒する。(平岡忠紀●取材/文)
NTT-BBのブローバ、スタート
●100社1400番組を配信、今年中に100万会員を
ブローバの詳細はこうだ。(1)の情報提供では、「エンタテインメント」、「ライフ」、「ラーニング」、「ビジネス」、「ニュース」の5ジャンルで100社から約1400番組を配信する。これまでの情報提供とは一線を画し、動画中心の内容だ。光ファイバーでの受信を想定した毎秒6Mbpsの番組も配信する。
(2)の機能では、個人利用者が作成した映像を専用サーバーに蓄積して回覧したり、メールに添付したりできるほか、最大30人が参加した動画付きチャットが用意される。
(3)のサービスでは、効率的に情報流通できるように設計されたNTT-BBの独自システム「CDN」などを希望企業に利用してもらう。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)は、家庭用ゲーム専用機「プレイステーション2」の利用者向けに、このシステムを経由してゲームを配信するサービスを5月をめどに開始する。
NTT-BBの和才社長は、「ブロードバンドで『映像を見る』ことをきっかけに、さまざまなビジネスが広がる」と胸を張り、強気の姿勢を崩さない。
まず加入目標について、3月末までの試行サービス中は3万弱だったが、「今年中に100万。それを達成できると確信している」(和才社長)と言い切る。100万会員といえば、いきなり業界6位の「So-net(ソネット)」に次ぐほどの会員数になる。
NTT-BBでは、(1)のうち、おもに娯楽分野の情報配信を中核事業に据えており、ブローバの開始時点で1400番組の約7割が有料だという。視聴料金は200-300円が中心だが、なかには、大手予備校「代々木ゼミナール」の受験講座が12番組で3万円といったものもある。
これらを前提に、「100万加入時点で100億円前後の売り上げを見込み、2005年度に単年度黒字、07年度に累損解消を目指す」(和才社長)。
あるインターネット接続事業者(ISP)幹部は、こうしたNTT-BBの積極的な計画について、「否定できる材料がない」と前置きしたうえで、こう漏らす。
「ただでさえ採算が悪化しているのに、『最後で最強の新人』が登場した。間もなく、業界は淘汰が始まる」。
●ネット事業を制する
なぜ、NTT-BBがISPと競合するのか。
現在、大手ISPでは、利用者1人を獲得するのに平均で約2万円かかるといわれている。接続料金だけでは、半年ほどかからなければ回収できない金額だ。そこでISPでは、有料情報の配信を仲介することで手数料を上乗せする戦略に切り替えた。だが、ソニーの子会社として業績連動株式(トラッキングストック)を上場しているSCNですら、02年3月期の売上高333億円に対し、21億円の最終赤字を見込んでいる。いまだ黒字化の道筋がつけられないほどの“低空飛行”を続けているのだ。
業界全体に打開策が見えないなか、行く手に立ちはだかったのがNTT-BB。提供番組数について、昨年11月時点でNTT-BBは「1000」としていたが、今回、それが「1400」に増えた。ISPの収益拡大のために確保しなけばならない番組提供業者が、NTT-BBに流れているのだ。「NTT-BBの集客力の強さは疑っていない」(番組提供業者)。
そのうえ、NTT-BBは、NTT東日本・西日本の「フレッツ・ADSL」などを利用する個人向けに月額1300円からのインターネット接続サービスを始めた。試行サービスのように番組提供などに事業が限定されていれば、「既存ISPで接続して、NTT-BBで番組を見る」という棲み分けが可能だったが、それもできなくなった。つまり、本格稼働と同時に年商100億円の潜在力をもつ「巨大ISP」が誕生することになるのだ。
それどころか、NTT-BBの潜在力は、さらに大きくなりそうだ。
NTTグループを統括する日本電信電話(NTT持株会社)の宮津純一郎社長は3月22日の定例会見で、「コンテンツ配信事業についてはいずれ統一していかなければいけない」、「(ISP事業を)いかに能率を上げて値段を下げていくか、というような議論になれば、なるべく統合して効率を上げることを第一義にして考えていけばよい」と、グループ内のISPと関連事業の統合を示唆した。
その集約先こそ、NTTが完全子会社として立ち上げたNTT-BBだ。仮に、NTT-BBが100万会員に達した時点で約270万以上の会員を抱えるグループ最大のISP「OCN」を吸収すれば、それだけで業界2位のNEC「ビッグローブ」と肩を並べるほどの規模になる。
NTT-BBはもともと、NTTが01年4月に発表した「NTTグループ3カ年計画」で設立を明らかにした会社だ。この時は「光サービス会社」と仮称で呼ばれ、光ファイバー網の上でやり取りされる情報の流通市場をつくる事業だけを手がけることになっていた。しかし、その会社がNTT-BBとなり、ブローバの全容が明らかになるにつれ、事業領域を徐々に広げてきた。
NTT関係者はこう明かす。「電話事業の収益環境が日々厳しくなっているなか、NTTグループにとって、ネット事業を制するのが至上命令。だからこそNTTは、個人向けネット事業のすべてを統括する戦略会社としてNTT-BBを育てたいと考え、自社から精鋭社員を送り込んだ」。
実は、こうした狙いは、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の設立時とまったく同じだ。NTTコムは当時、まだ採算性が高かった長距離通信とOCNなどネット関連事業を統括し、将来の中核会社としてグループを支える役割を担っていた。しかし、長距離通信は値下げ競争が激化の一途をたどり、ネット事業は米ベリオの買収で数千億円規模の評価損計上を余儀なくされた。いまやNTTコムは、「NTTから『お荷物』扱いされている」(別の関係者)。
NTTグループ幹部は語る。「ブローバが、そしてNTT-BBが、NTTの将来を握っている」。その期待にNTT-BBは応えることができるだろうか。