その他
“杜の都”で闘う独立系24社 自治体ビジネス獲得に向け結集
2003/04/21 21:12
週刊BCN 2003年04月21日vol.987掲載
宮城県仙台市は、総務省が全国8か所に指定した「ITビジネスモデル地区」の1つ。IT起業支援などITビジネスの集積に拍車がかかる。その仙台市で独立系システムインテグレータ24社が結集して株式会社「ハイパーソリューション」を設立、自治体ビジネスへの参入を狙っている。大手ベンダー各社が持てるパワーをフルに投入し、自治体ビジネスの拡大を図るなかで、地元のパワーを結集して大手に対抗できる勢力を作ろうというのが狙い。参加各社がそれぞれに得意とする力を存分に発揮できるかどうかが、事業成功のカギを握る。(川井直樹(ジャーナリスト)●取材/文)
仙台の地元システムインテグレータ
■最初は勉強会からスタート、大手ベンダーの対抗勢力へ
ハイパーソリューション設立の最大の目的は、「大手ベンダーに対抗できるパワーとスキルをもった勢力になること」(江幡正彰・ハイパーソリューション社長)と明快だ。ハイパーソリューション社長であると同時に、地元システムインテグレータのアート・システム社長でもある江幡氏は、宮城県や政令指定都市である仙台市などの大規模システム案件に対して、「これまでは土俵に上がることもできなかった」悔しさも、ハイパーソリューションならば味わわずに済むようになるという。
これは、ハイパーソリューションを構成する主要地元システムインテグレータの各経営トップにとっても共通の思い。「大きな案件には、どうしてもエンジニアの数もノウハウもスキルも足りないため参加できなかった」と、地元大手の東北システムズ・サポートの稲葉輝雄社長も限界があったと話す。このため大手ベンダーが受注し、地元企業はその下請けに甘んじるケースが多かった。
今、景気低迷で民間のIT投資が落ち込み、その一方でe-Japan戦略が進められ、自治体の電子化ニーズが高まりつつある。そんななかで、大手ベンダーも必死に自治体ビジネスの拡大を図っている。このままでは、「地元システムインテグレータは生き残れない」という共通の思いがハイパーソリューションという形で結実したわけだ。
もともとハイパーソリューションの母体は、2001年初めにJavaの勉強会として、当初は6社でスタートした。「地方の1企業が最新の技術トレンドに追いついていくのは困難」(木皿正志・東北オータス社長)ということで始まったこの勉強会も、OJTへと発展させていくなかで、プロジェクトに対して責任をもっていくためには、会社組織にする方がベターということになり、01年10月にハイパーソリューションとして発足した。
「1社に1人や2人のJava技術者がいる状態では大きなプロジェクトはできない。Java研究会に参加して各社のスキルを集めたことで、大きなプロジェクトを可能にできることがわかった」(佐藤公幸・コンピュータシステム開発社長)。
さらに、電子自治体需要の拡大を予想するとともに、宮城県が掲げる「みやぎマルチメディアコンプレックス(MMC)構想」に対応していくために、02年6月、「みやぎITコラボレーション研究会」を設置。宮城県のIT化事業を地元システムインテグレータとしてどのように取り込んでいくかという検討を開始していた。
その研究のなかで出た結論は、「今から新会社を設立しても自治体の登録業者になるのは難しい。そこで、すでに法人化していたハイパーソリューションを活用することにし、産学の協同体制を目指した」(江幡社長)。自治体ビジネスをターゲットとする会社へと方向を転換したわけだ。
02年11月には、第3者割当増資を実施し、新たに12社が資本参加。さらに資本参加が不可能な企業も、技術協力という形で参画を可能にしている。
Java勉強会の頃から、参加企業同士の気心は分かっていた。さらに、宮城県情報サービス産業協会(MISA)のなかでは、「同じ委員会に所属していたりして、お互い積極的に情報交換を進めていた」(向井忠彦・タオネット社長)こともあり、ハイパーソリューションとして結集するのは容易だった。
参加企業の関係が良好なのは、ハイパーソリューションの取締役および社長の選出方法にも表れる。「出資企業18社が出資額に関係なく1票をもち、投票により取締役を選出する。そこで選ばれた取締役の互選により代表を選ぶ仕組み」(江幡社長)とユニーク。誰となく「だから人格高潔でないと社長になれない」という冗談も飛び出す。
江幡社長によれば、「全くの偶然だが、参加している企業のビジネス領域が、それぞれ異なっている」という点も、同業18社が参加しスムーズに運営できる最大の要因でもある。企業向けのビジネスでも、「ほとんどが競合する関係にない」(小野寺満明・システムロード社長)。
加えて、取締役6人および監査役が社長を務めるそれぞれの会社が黒字経営というのも重要なポイントだろう。決してハイパーソリューションに依存するわけではなく、これまで参入のチャンスが少なかった自治体ビジネスに、協力して大きなパワーを発揮しようという意志は固い。
■生き残りをかけ力を結集、各社のスキルをデータベース化
すでに、システム構築プロジェクトを受注する体制もできている。常駐メンバーは15人だが、各社がもつメンバーのスキルをデータベース化しており、案件ごとに最適なメンバーを投入したプロジェクトチームを構成する考えだ。
「それぞれの会社ではマンパワーもスキルも足りないという問題を、参加企業から人的リソース、ノウハウを出し合うことでクリアできる」(江幡社長)というわけだ。プロジェクトチームによりシステム構築を実現し、常駐メンバーを置くことでサポート業務も充実させるという体制だ。
ただ、自治体ビジネスの獲得を目指すとしながらも、参加企業のうち現在、自治体関連のビジネスを手がけているのが8社と少ないが、それぞれのノウハウを結集し、課題をクリアしていくことも可能になるだろう。その過程では、宮城県以外でも、地元システムインテグレータとのアライアンスによる事業拡大も視野に入れる。
また、地元システムインテグレータの力を結集したといっても、決して大手ベンダーとの競合だけを想定しているわけではない。「大手と競合できるパワーとスキルを備えることで、むしろ大手と同じレベルで協力することも可能になる」(江幡社長)と、自治体ビジネスで有力なパートナーになるケースも出てきそうだ。
自治体IT化と市町村合併という大きな変化のなかで、地方の中小システムインテグレータは生存競争の真っ只中にある。そうした状況下で、自治体ビジネスを対象にしたハイパーソリューションという取り組みは、中小システムインテグレータにとって自治体ビジネス獲得の1つの方向性を示している。この点で、ハイパーソリューションの成否が注目を集めることは確実だ。
宮城県仙台市は、総務省が全国8か所に指定した「ITビジネスモデル地区」の1つ。IT起業支援などITビジネスの集積に拍車がかかる。その仙台市で独立系システムインテグレータ24社が結集して株式会社「ハイパーソリューション」を設立、自治体ビジネスへの参入を狙っている。大手ベンダー各社が持てるパワーをフルに投入し、自治体ビジネスの拡大を図るなかで、地元のパワーを結集して大手に対抗できる勢力を作ろうというのが狙い。参加各社がそれぞれに得意とする力を存分に発揮できるかどうかが、事業成功のカギを握る。(川井直樹(ジャーナリスト)●取材/文)
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