デルが液晶テレビを発売、インテルが液晶プロジェクタ用の素子を開発、マイクロソフトがデジタルAV(音響・映像)環境を提案…と、ここにきてIT系からAV系を攻める動きが活発化している。そのターゲットのデジタルAVシーンでは、デジタルカメラ、薄型テレビ、DVDレコーダーを称して、“新三種の神器”と言われ、その目覚ましい成長が話題になっている。なぜこの3つの製品は、急角度で成長するのか。今後、デジタルAV市場はどう拡大するのか。(麻倉怜士(ジャーナリスト)●文
「お楽しみはこれからだ」
“新三種の神器”の時代、到来
■生活に深く入り込んだアイテム
私の観るところ、デジタルカメラ、薄型テレビ、DVDレコーダーの新三種の神器を中心とするデジタルAV製品の成長は、まだ緒に付いたばかりである。ハリウッドミュージカル風に言うと、you ain't got nothing yet――「お楽しみはこれからだ」。
なぜなら、これらカメラ、テレビ、ビデオの3つの分野は、もともと現代日本の生活に深く深く入り込み、絶対になくてはならないアイテムとして確立しているからである。これらがまったく新しい分野であれば、提案し普及させるには、もの凄いエネルギーと時間が必要だ。
ところがカメラ、テレビ、ビデオなら、すべての人が所有し、現に使っている分野である。国民全体が、その分野を知悉し、現行製品の問題点も分かっているところに、「お持ちのものよりはるかに面白いですよ」と言われれば、それになびくのは当然のことではないか。
これらを称して「デジタル家電」とも言われることがあるが、それは正しくない。「家電」という言葉は冷蔵庫や電子レンジなどの白もの製品にこそふさわしい。それらも今後、デジタル化され、ネットワーク化が図られるが、たとえより便利に、安全になったとしても、それが「革命的に面白い」というものでもない。
1950年代の旧三種の神器、洗濯機、冷蔵庫、テレビが「生活の必需品」だとしたら、新三種の神器は「エンタテインメントの必需品」なのであり(テレビのみが共通するが、これからの薄型テレビは、放送を見るための旧テレビとは違う、マルチメディアな愉しみをもつ)、それは「デジタルAV」なのである。
■エンタテインメントの道具に
さて、「エンタテインメントの必須アイテム」が、今後さらに急角度で伸びるという根拠は何か。何が「革命的に面白い」のか。
まずデジタルカメラ(正確にはデジタルスチルカメラ)は、デジタルならではの便利さに、画質の良さが加わり、さらには、エンタテインメントの道具に変身しているのが成長の理由だ。
そのパワフルさは、従来の銀塩方式と比較するなら一目瞭然。撮影即再生可能、ネットワークと繋がる、パソコンにためられる…というメリットに加え、圧倒的に経済的だ。
銀塩カメラなら、撮れば撮るほどフィルム代、DPE代のランニングコストが加算されるが、デジタルは、何枚撮ろうが無料――。どころか、撮れば撮るほど1枚当たりの単価(購入価格÷撮影枚数)は安くなる。
こうしたベーシックなメリットに加え、数百メガピクセルが当たり前になり、画質でも銀塩カメラとタメを張るまでに向上。一眼レフ型や交換レンズ方式など趣味性のある分野も開拓され、銀塩カメラに頑固にこだわっていたマニア層がデジタルに大挙して移行している。
さらに、競争激化により強い製品が次々に出ていることも、市場に活気を与えている。
95年にデジカメトレンドの先駆けをしたカシオ計算機がその後、不振を続け、今、再度薄型機で復活したことなど、製品力がまだまだ成長のカギであることを示している。
■“エアチェック”が根っこに
DVDレコーダーの成長理由は単純だ。日本のユーザーはエアチェック(テレビ番組録画)が大好きだからである。録っておきたい番組が多いという点で、日本のテレビ局のコンテンツ文化は世界一だ。番組コレクションを革命的に便利に面白くしたのがDVDレコーダーだ。
これまで番組録画用のメディアとしてはVHSしかなかった。ところが、画質はいまひとつで、見たい場面の頭出しができず、保管に場所をとり、ダビング編集も相当難しい、長期間に保存すると物理的にへたってくる……。
一方、ディスクはまったく逆だ。高画質で、ランダムアクセスができ、編集が楽しめ、保管も省スペースだ。テープみたいに長期間保存すると磁気が抜けるなんてこともないし、CD感覚で使い勝手が良いし、それに、スマートでかっこいい。
さらにハードディスクドライブ(HDD)と一体化したハイブリッド型では、編集がより楽しい。おおざっぱにHDDに録っておき、あとで好きな場面だけをDVDメディアに書き出せば、よりコレクションの完成度が高まる。日本国民が大好きなエアチェックを劇的に快適にしたDVDレコーダーが売れないわけはない。
ところが、その親戚にハードディスクだけのレコーダーがあるが、これは売れないだろう。HDDと記録型DVD(それはDVD-RAMであろうが、DVD-RWであろうが、DVD+RWであろうが、種類を問わない)のハイブリッドこそが売れ筋であり、DVDの単体、HDDの単体は、ダメだ。
■夢の「壁掛けテレビ」が実現 液晶、プラズマの薄型テレビも、まさに国民的熱狂アイテムだ。そんな喧噪の背景には、まずはベーシックなウオンツとして、「壁掛けテレビ」が実現するという夢の叶いがある。重たく、奥行きの長いブラウン管型ディスプレイでは、それは絶対に不可能なことだが、プラズマ・ディスプレイでは壁の強度を上げることで、また小型の液晶ディスプレイならば、そのままでも壁に掛けることができる。
今後の伸びを保証するのが、デジタル放送だ。地上デジタルの放送可能地域が増えれば、それだけ薄型テレビも売れる。なぜなら、デジタル放送こそ、薄型テレビの力を最大限発揮するメディアだからだ。従来のブラウン管式は、フォーカスの問題、画面の均一性の問題から、デジタル放送ならではのハイビジョンの高精細再現性とデータ放送のキャラクター再現性に弱い。
しかし液晶、プラズマは違う。画素で映像が形成されるので、ブラウン管の問題は原理的にない。画像歪みがなく、全画面、均一フォーカス、均一描画であり、場所による色ズレや図形歪み、フォーカス低下は皆無なのだ。デジタル放送は薄型テレビを求め、薄型テレビはデジタル放送で大成長する――のである。
新三種の神器の楽しみは、まさにこれからだ。