守りから攻めに転じ…られるか

　昨年6月の社長就任から1年間、黒川博昭・富士通社長は2000人以上の顧客と名刺交換し、業績不振の富士通を「健康で元気な会社にする」と説いて回ったという。5月26日に東京で開いた経営方針説明会では、「強い会社にする」と、今年度をスタートとして〝守りから攻め〟に転じることを発表した。経営方針説明会では、就任時に掲げた2003年度（04年3月期）の連結業績が、「パーフェクトではない」（黒川社長）とは言いながらも、ほぼ目標達成したこともあり、新たに中期目標を掲げ富士通の成長のロードマップを示した。「06年度（07年3月期）には営業利益3000億円、純利益1000億円を生み出せる会社にする」。この1年間は、「顧客起点の行動」、「品質・納期・コストダウンの追求」、「スピードアップ」など内部改革を進め、事業統合や再編に次々に着手した。

　黒川社長が「04年度をスタートラインとして、守りから攻めに転じる」として明らかにした内容は、プラットフォームやソフト・サービス、電子デバイスなど各事業別に細かいが、率直に言って特に目新しい材料はなく、収益を急激に押し上げる起爆剤があるわけでもない。当然、〝攻め〟の割には昨年度の延長のような経営方針に質問が飛ぶ。黒川社長は、「社長直属のビジネスユニットの設立を検討している」と、新規事業創出の特命部隊をつくり、RFID（無線ICタグ）やテレマティクス（車載情報端末）分野に今後本格的に進出することをほのめかすのが精一杯。

　例えば、富士通の連結売上高の40％以上を稼ぐ「ソフト・サービス事業」。〝攻め〟強化項目としては、オフコンやメインフレームなどレガシー（旧式）のマイグレーション（システム移行）サービスや、国内大手400社と準大手4000社の顧客を対象にしたオンサイトアウトソーシング、上流工程を扱うコンサルティングだ。国内のオフコンやメインフレームは、ほとんどが富士通、NEC、IBMの3社製品で占められている。ここ数年がレガシーの入れ替え時期とあって、マイグレーション争いは激しくなっている。そして、日本アイ・ビー・エム（日本IBM）や外国のハードウェアベンダーの攻勢に富士通とNECが苦戦しているのが実情。富士通は、自社製のレガシーシステムユーザーの〝牙城〟を死守する必要があり、「富士通製から富士通製へ」というマイグレーション策の強化が中心になるだろう。

　富士通は、富士通サポート＆サービス（Fsas）を今年10月にも完全子会社化し、グループの保守・運用サービス事業をすべてFsasに移管する。「事業の重複を避け、サービスのスピードアップを図る。調達、導入、運用、撤去の流れを電話1本で引き受ける」（黒川社長）と、Fsasに一本化することで、保守・サービスがスピーディになるが、新規顧客獲得に直接つながる戦略とはいえないだろう。富士通の戦略は、オンデマンドを掲げるIBMにますます似てきたといわれる。ハード、ソフト、プロセッサまで自前で生産し、システムインテグレーションも行う。コンサルティングを強化すれば、さらに似る。だが、日本IBMのミドルウェアの売上高が好調であるのに対して、富士通は〝売れ筋〟のミドルウェアがなく、安定して収益を上げる体質ではない。だからこそ、17万社といわれる富士通の顧客を手放さないためにも、〟守り〟の戦略を徹底する必要があるわけだ。 谷畑良胤●取材／文