設立50周年を迎えたアイオーデータ。祖業に近いストレージ事業で培った信頼性は、いまや医療DXやデータの真正性証明にまで広がっている。企業や社会の「止められない」「間違えられない」を、どう支えているのか。アイオーデータ執行役員の宇津原武・第2事業部部長、医療DX事業室の内藤基夫・室長、第3事業部企画3課の森田祥二郎・課長に話を聞いた。
フロッピーからHDD、そしてNASへ。アイオーデータのストレージの歩み
──アイオーデータのNAS「LAN DISK」は、さまざまなオフィスや業務の現場で目にします。ストレージ事業の歩みと、開発で特に重視してきた点をお聞かせください。
宇津原 当社のストレージ事業は、古くはフロッピーディスクや光ディスクのドライブから始まり、HDD、そしてNAS製品へと、時代に応じて主力商品が移り変わってきました。NASの開発では、HDDの故障に備えるデータ保護が大きなテーマです。複数のHDDを搭載して冗長化するRAID構成は広く用いられており、当社でも多くの製品で採用しています。
アイオーデータ
執行役員 第2事業部 部長
宇津原 武
法人向けNAS「LAN DISK」最新モデル
ただ、RAIDだけで万全と言い切れない面もあります。同時期に製造されたドライブは劣化の進み方も似るため、RAIDを構成する複数のドライブが同時に故障してデータを失うおそれがあるのです。そこで当社は、同時故障のリスクを抑える独自の冗長化技術「RAIDeX」(レイドエックス、旧称:拡張ボリューム)を2014年に投入し、複数ドライブを搭載するLinux NASでは標準で採用しています。
もう一つは信頼性です。24時間・5年間の連続稼働にも安心してご利用いただけるよう、ドライブの配置や熱・振動への対処といった細部まで工夫を重ねてきました。こうした取り組みが安心感につながり、医療の分野などにも広くお使いいただけるようになったのだと思います。
情報資産を守るため外部へのバックアップ機能も拡充してきました。最近ではUSB接続のHDD(DAS)に加え、クラウドストレージへのバックアップも実現しています。広域災害が相次ぎ、中小企業にもランサムウェアの被害が及ぶ中で、この3点セットは最低限の備えとしてお勧めしています。企業の規模を問わず、BCPの重要性は疑いようがありません。一方で、セキュリティー対策とはいえ、特に中小企業では、本業に直接的に関わらないIT投資に予算をかけづらいのも事実です。当社製品の仕組みと運用を工夫いただくことで、リーズナブルに安心感を提供できていると思います。
受付は止められない。 オンライン資格確認端末は5万台近くへ
──医療分野では、病院や薬局の窓口でマイナンバーカードから健康保険の資格を確認する、オンライン資格確認用の端末を提供されています。どのような製品なのでしょうか。
内藤 当社のオンライン資格確認端末は、日本医師会ORCA管理機構が推奨する唯一の端末で、シリーズ累計出荷台数は5万台に近づいています。オンライン資格確認ではそれほど大きなデータ保存容量は求められませんが、NASで培った高信頼ハードウェアをアプリケーションサーバーとして活用しています。
アイオーデータ
医療DX事業室 室長 内藤基夫
このハードウェアについては、電子カルテや医事会計システムなどのシステムメーカーから、中間サーバーのような形で使いたいというご相談も増えています。平常時はクラウドを利用し、広域災害などで通信が途絶えた際にも医療活動を止めないためにオンプレミスでも運用したい、というニーズです。医療分野に限らず、エッジ用サーバーとして同様のご相談をいただいています。
──長期間の連続稼働を前提としたNASの世界で鍛えられたからこそ、信頼性が問われるサーバー用途でも注目されるわけですね。
宇津原 ハードウェアの信頼性に加え、当社とパートナー企業による保守サービスも、医療の市場で評価いただいているポイントだと思います。
内藤 従来は移行作業に2時間あまりを要し、パートナー企業が1日に対応できる件数も限られていました。しかし最近のモデルでは、リプレース時の作業を効率化する「引っ越し機能」を標準搭載しています。パートナーの負担を軽くし、より多くのお客様にご対応いただけるようにと用意したものです。
制度の動きをいち早く。 カードリーダーから真正性証明まで
──医療の市場では、ICカードリーダーの需要も拡大しています。その中でアイオーデータはシェアを伸ばしていると聞きます。どのような背景があるのでしょうか。
内藤 国の政策としてマイナ保険証へのシフトが進み、医師や薬剤師などが資格証明に使う「HPKIカード」の利用も広がりました。接骨院・整骨院の分野でも同様にニーズが高まり、日本柔道整復師会からは唯一の推奨メーカーとしてご指定いただいていました。さらにスマートフォンのマイナ保険証も使えるようになり、対応リーダーの需要も出てきました。
本人確認に使うICカードリーダーは、機能面では各社で大きな差が出にくい製品です。だからこそ、制度面の動きをいち早く捉えられるかどうかが分かれ目になります。例えばスマートフォン対応リーダーでは、国の施策や補助金制度などの情報を読み解き、市場で必要性が語られる前から営業活動に着手していました。車検証へのICタグ搭載など、他の分野でも同じように動いています。
──一方、2025年3月には、データの真正性を支える「アイオートラストサービス」を開始されました。この事業に踏み出した狙いや、活用のイメージをお聞かせください。
宇津原 真正性証明に関わる取り組みを始めたのは、10年以上前のことです。PDFファイルに「いつ作成されたか」の情報を付与するタイムスタンプ専用端末として、ライセンス込みのアプライアンス製品を提供してきました。
近年は電子帳簿保存法への対応などを背景に、他の業種においても電子データの真正性証明のニーズが高まっています。2025年3月に開始した「アイオートラストサービス」は、専用機器を提供するのではなく、当社がサービス事業者としてタイムスタンプを提供するものです。独自のアルゴリズムを用いて複数のTSA(時刻認証局)を活用することで、運用コストを抑えながら、業務を止めない仕組みづくりを行っています。現在は、「データの非改ざん証明」「データの存在証明」を担保するタイムスタンプを提供し、順次サービスを拡充していく予定です。
内藤 医療の流れでも、診療情報提供書などをデジタル化する上で真正性証明のニーズが高まっています。病院では、100床あたり1日1000回ほどのタイムスタンプ利用が見込めるという試算もあります。
医療データは一定期間の保存が義務づけられ、例えば電子カルテでは最終診療が終わってから5年間です。タイムスタンプの有効期限は一般に約10年とされていますから、余裕を持ってお使いいただけると思います。
高齢者向けの「押すだけテレビ電話」に、思わぬ用途
──個人向けに提供を開始された「memet」(めめっと)は、介護などの現場でも引き合いがあると伺いました。
森田 memetは、高齢の方がお子さんやお孫さんと対話する場面を想定し、簡単な操作で決まった相手にだけ通話できるデバイスです。「かんたん、押すだけテレビ電話」と銘打っています。介護事業者からのお問い合わせが多いのは、施設に入られた高齢者がご家族と気軽に話せるように、という考えからのようです。
アイオーデータ
第3事業部 企画3課 課長 森田祥二郎
法人の用途では、無人の受付窓口に置いて担当者とつなぐ使い方や、薬局ではスマートフォンを持たない、または操作が難しい高齢患者向けに、薬剤師がオンライン服薬指導を行うためのテレビ電話端末として活用したい、といった引き合いがあります。薬剤師の働き方と患者さんへのサービスを両立できる使い方でしょう。似た引き合いは他の業界からもあり、思いがけないニーズを掘り起こせた感覚です。
かんたん、押すだけテレビ電話「memet」
止まらないのが当たり前。 社会基盤を安心感で支える
──前回は人材育成という未来への投資を伺いました。今回のお話は、今日の社会を止めないための取り組みです。企業や社会に対し、どのような価値を提供していこうと考えていますか。
内藤 医療分野では、現在5万台近い端末が全国に広がり、医療DXを支えるインフラのような存在になりつつあります。今後は医療システムベンダーに加え、そのシステムを扱う全国の販売店とも連携していきます。より安定して長く使える基盤を我々が提供し、その上でさまざまなパートナーの事業が走っていく形になれば幸いです。
医療ITという分野に限らず、もっと広いエコシステムという観点では、製品の廃棄までのライフサイクルも意識しています。ストレージなどの製品は、データ消去が不完全なまま処分されると思わぬ流出につながります。電子機器の回収・リサイクルを手掛ける企業とも連携し、安心できる体制を、社内外問わず整えていきたいです。
宇津原 今年、社名から「機器」がなくなりました。機器を軸にしつつサービスも充実させ、さまざまなお客様が安心して使える環境を整えていく。近年の当社の姿勢を踏まえたものでもあるのです。
インフラは、止まらないのが当たり前です。お客様が業務に専念できる状態をどうつくるか、そこから逆算して製品やソリューションを組み立てています。NAS製品では、セキュリティーソフトやテープアーカイブ、クラウドアプリとの連携が実現しました。今後もさまざまな得意分野を持つパートナーと協力し、ソリューションの幅を広げていきます。