通話からデータ通信、そして“財布代わり”へと進化を遂げる携帯電話。その携帯電話端末市場で国内トップシェアの実績を誇るNEC(金杉明信社長)はこのほど、携帯電話と無線基地局装置の開発・製造を手がける子会社、埼玉日本電気(NEC埼玉、角田秀幸社長)の工場内を初公開した。日本の携帯電話市場をリードし、急成長する中国市場にも積極的に攻めるNECの携帯電話開発・製造の現場を見た。(木村剛士)
基地局装置の開発もカバー
■製造能力は1日約2000台
NEC埼玉では、第3世代携帯電話の無線基地局向け装置と、2.5および第3世代携帯電話の開発から設計、製造まで一貫して行う。携帯電話では、1日平均で約2000台の携帯電話を製造する能力をもち、NECグループの携帯電話開発・製造の核となっている。
工場ではセル生産方式を導入し、変化が激しい携帯電話の需要に効率的に対応できる体制を整えている。従来、1台の携帯電話を生産するのに1本のベルトコンベアを用いて、最初から最後まで1つのラインで完結していたが、現在は作業員10人弱の作業グループを数グループ形成してグループごとに端末を製造するシステムを採用している。各グループごとに台数や品質の作業責任も負わせている。
■作業員の実績を公開 組み立てラインには、必要最低限の部品しかストックせず不足しそうな部品をすぐに補えるように、「水すまし」と呼ばれる部品補給の専門作業員が各ラインを回っている。無駄な部品を作業ラインに載せることで起こる作業員のミスを防ぐためと、過剰な部品在庫を持たないためだという。

また、NEC埼玉では、各ラインで製造を担当する作業員ごとに生産量や良品比率を競わせ、生産性の向上を図ることを徹底している。その厳しさを物語っていたのが、通路に貼り出された各作業員の作業実績表。各作業員が製造した端末台数と、品質チェック時に不良と見なされた台数および回数を数値・グラフ化してランク付けし、全作業員に公開している。
これにより1997年時には不良率が700ppm(1ppmは百万分の1)だったものが、「現在では10ppm以下になった」と開発責任担当者は自信を見せる。また、作業時間も当時に比べ約30分の1に削減できたという。
一方、無線基地局装置の製造では、プリント基板に電子部品を実装したパネルを作成し、そのパネルをラックに組み入れ、品質テストまで行う工程を5-6人の作業員で構成するグループで一貫して行う。第3世代携帯電話向けの基地局装置を開発するのは、NECグループのなかでNEC埼玉だけ。携帯電話の製造完了、出荷までの日数は約5日間で、製造自体は1日で完了するが、品質テストに3-4日を費やしている。
工場内には、これまでNECが手がけてきた携帯電話を展示するショールームも設置している。
87年4月に国内向けに初めて販売した携帯電話にはじまり、デジタル1号機やNTTドコモの「iモード」機能搭載1号機、「FOMA(フォーマ)」1号機、最新機種の「N900is」まで歴代の携帯電話約20台の携帯電話が並んでおり、携帯電話の歩みを詳しく見ることができた。
■中国市場での戦略商品も生産 今回NECは、国内向け携帯電話だけでなく、中国向け携帯電話も併せて披露した。NEC埼玉では、日本国内向け携帯電話の開発・製造が中心だが、一部の海外向け製品も扱っている。NECが「今後の携帯電話事業の最重要市場」(中村勉・取締役常務)と位置付ける中国市場向けに販売した戦略商品であるカード型携帯電話「N900」の開発・製造もNEC埼玉が担当している。
海外市場にはハイエンドモデルを中心に販売しているNECだが、特に日本向けの「N900i」に関しては「機能面で開発が複雑な部分が多く、海外生産では技術的に不可能」(NEC埼玉の角田社長)という理由からだ。「N900」のほか、海外市場で初めて販売するメガピクセルカメラ付き携帯電話や、第3世代携帯電話、タッチパネルを搭載した携帯電話など、今後発売する製品も展示していた。

NECでは海外の携帯電話事業を今後、「商品企画からマーケティング、開発・製造まで中国拠点を中心に展開していく」(中村常務)方針を打ち出している。NECの携帯電話取り扱い店を今年度には昨年度に比べ約3-4倍の2000-3000店舗に増やす計画で、今年度、中国での携帯電話ビジネスに拍車をかけていく計画も明らかにしている。
開発・製造に関しては、日本主導から今年6月に設立した中国拠点、NEC通訊(NECテレコミュニケーションズチャイナ)が仕切っていくことになる。
NEC埼玉を中心に携帯電話の生産革新を図ってきたNEC。日本よりも圧倒的にボリュームが大きい中国市場でも、生産と品質の向上のために細部までこだわっており、NEC埼玉で熟成してきたプロセスを生かすことが必要不可欠になる。(週刊BCN 2004年8月2日号掲載)